日本と世界

気候変動にどう対するか-古気候学が示すもの-

立命館大学 古気候学研究センター長の中川毅教授の講演「現代の「おだやか」な気候はいつまで続くのか」と題する講演を聴いた。福井県にある水月湖の底の堆積物に現れる縞模様「年縞(ねんこう)」の研究で知られる人だ。講演の概要は、以下のとほり。*1 1…

津野海太郎氏の連載コラム

新潮社のWebマガジン「考える人」に、津野海太郎氏の「最後の読書」といふ連載コラムがある。10月18日の記事は「高級な読者と低級な読者」と題されて、日本の読書史概観とでも言ふべき内容だつた。 「だれにとつても本を読むのはいいことなのだ」、「ただし…

昭和天皇「拝謁記」

NHKの昭和天皇「拝謁記」は興味深い番組だつた。NHKのサイトには番組の情報が載せられてゐて、放送ではカットされた情報も見ることが出来る。 「拝謁記」は、初代宮内庁長官だつた田島道治が残した昭和天皇との対話の記録で、これまで知られてゐなかつた事が…

『徳富蘇峰 終戦後日記』を読む

終戦の日が近づいたこともあり、『徳富蘇峰 終戦後日記』を読んだ。徳富蘇峰(1863-1957)は、戦前に活躍したジャーナリスト、歴史家で、戦前の一大論客。大日本言論報国会の会長などを務め、戦後は戦争責任者として批判された人である。そんな蘇峰が終戦後に…

ゲンロンβ33を読む

読み応へ十分のゲンロンβ33 ゲンロンβ33は、大変充実した内容になつてゐる。冒頭の3つの記事だけで、おつりが来る感じ。東浩紀氏の「テーマパークと慰霊」を読むと、大連といふ街を訪れて見たくなり、テーマパークの怪しさ、地に足の着かない感じと本物…

日本の哲学

フランスのラジオ放送局 France Culture で日本の哲学に関する放送を流してゐた。「哲学の道」Chemin de la Philosophie といふ番組で、4回の放送は、それぞれ次のやうに題されてゐた。 1) サムライの倫理 L'éthique des samouraïs 2) ロラン・バルト「表徴…

論壇 ゲンロンβを読んで

1976(昭和51)年に、小林秀雄が「新潮社八十年に寄せて」といふ新聞広告用の文章を書いてゐる。全体で400字程度の短い文章だが、二段落からなるその最初の段落には、次のやうに書かれてゐる。 若い頃からの、長い賣文生活を顧みて、はつきり言へる事だが、私…

百聞は一見に如かず?

イスラム過激派と思しき風貌の男性がマリア像を壊す動画が流れてゐる。さて、これを見て何を思ふか。単純な反応は、「イスラム教徒は酷い奴らだ」とか、「狂信者は困つたものだ」とかいつたものだらう。 しかし、動画は10秒ほどで、何の説明もついてゐない。…

正義と戦争

Yuval Noah Harari氏の"Sapiens: A Brief History of Humankind"(邦訳「サピエンス全史」)を読み始めた。ホモサピエンスがネアンデルタール人よりも優位に立てたのは大きな社会組織を作ることに成功したからであり、その基礎となったのは神話mythである、…

軍と民主主義

アランの1923年4月10日付のプロポ。 ルイ十四世は組織や代表者による要求と見えるものを受け付けなかつた。しかし一人一人には好意的で、耳を傾けることもあつた。恩恵を求めてゐるのが明らかで、服従が問題にされない場合には、特にさうだつた。私は、部隊…

三つの人種

アランが1921年9月19日に書いたプロポ。 オーギュスト・コントが人種について述べたことは、今も考へてみる価値がある。誰でも自分の周りの人間を、知性、活動、情感のどれが勝つてゐるかで三種に区別できるやうに、人種も活動的な黄色人種、知的な白色人種…

ピラミッドとギリシャ神殿

アランが1923年3月20日に書いたプロポ。 ピラミッドは死を表してゐる。山のやうなその形から明らかだ。重力の働きに任せると積まれた石はピラミッドの形になる。だからこの形はあらゆる建造物の墓なのだ。恐ろしいことに、建築家は意図的に死に従つて建て、…

民主主義と戦争

1923年2月8日にアランが書いたプロポ。その一月ほど前の同年1月11日、ドイツの戦後賠償不払ひを理由に、フランス、ベルギーの部隊がルール地方を占領し、緊張が高まつてゐた。 「出来ることなら彼等を諭(さと)せ、諭せないのなら我慢せよ。」どんな事でも最…

集まつて議論することの価値

人が集まつて議論すれば良い考へが得られると思はれてゐるが、本当か。アランは悲観的な意見を述べてゐる。1923年1月19日に書いたプロポ。 人の集まりは私達に全てを求めて何も返さない。色々な団体が、どれも良い目的のものなのに、間も無く何も目指さず、…

聖夜

クリスマスイブに、アランが1922年12月20日に書いた文章を載せて置く。 クリスマスの夜、私達は何かを乗り越えるやう促される。この祭は決して諦めの祭ではない。緑の樹の明かりはどれも地上を支配する夜への挑戦であり、揺籠の幼な子は私達の真新しい希望を…

政治を学ぶ

アランが1921年12月15日に以下の文章を書いてゐる。 誰も親を選んではゐないし、よく見れば友達さへも選んだのではない。選んで背が高く或いは低くなつたのではないし、金髪や茶色の髪になつたのでもない。事実を受け入れて、そこから活動しなければならない…

国の記憶

個人の記憶は自然に残るが、国の記憶は、世代が変はると消えて仕舞ふ。この自然の流れに反して国の記憶を残すためには、意識的な努力を続けることが必要だ。教育が、その基本的な手段となる。 日本の場合、幾つかの理由でこの国の記憶を保つ仕組みが揺らいで…

「慰安婦」問題とは何だったのか

大沼保昭氏の『「慰安婦」問題とは何だったのか』を読む。慰安婦の問題が、また騒がしくなつてゐるので、一度勉強をしようと思つて読んだのだが、痛感したのは、この問題が今も生きてゐて、日々新しい歴史が作られてゐる、といふことだつた。本の題名は「何…

建前と理念

橋下徹大阪市長の従軍慰安婦を巡る発言が話題になつてゐる。ツイッターで橋下氏の発言を読んでゐると、建前と理念との違ひが理解されてゐないことを痛感する。この点を明確にしない限り、日本が世界の一等国になることは無理だらう。また、自国の過去の行ひ…

なでしこ讚

ロンドンオリンピックでのサッカー日本女子チームの活躍については、既に多くが語られてゐるので、今更の感は否めないが、やはり一言言ひたくなつたので、書いておく。 サッカー女子の決勝戦は日本時間の8月10日(金)の午前3時45分に始まり5時32分…

日本衰退の原因 2

<教育の問題> 前回述べたやうな日本における社会的な教養の欠如は、学校教育が不適切であることが最大の要因だらう。教へるべきことを教へてゐないのだ。社会科について言へば、出来あがつた制度については教へても、その制度の持つ意味や他の制度との比較な…

日本衰退の原因

<日本文化の構造問題> 最近は、日本の現状を憂ふ声が高く、戦後の教育に問題があつたといふ点を指摘する識者が多い。占領軍に押し付けられた憲法が悪い、日教組がいけない、戦後の親の家庭教育が酷すぎる等々と他人の悪口ばかり言つてゐても改善は望めまい…

「「適職」は幻想である」

今日の朝日新聞の求人欄に内田樹氏の「「適職」は幻想である」といふ文章が載つてゐる。一部を引用してみよう。 仕事というのは自分で選ぶものではなく、仕事の方から呼ばれるものだと僕は考えています。「天職」のことを英語では「コーリング」とか「ヴォケ…

治められる者のずる賢さ

アラン(1868-1951)が市民の持つべきずる賢さについて書いてゐる(1928年9月8日のプロポ)。革命により得た市民といふ地位は、決して気楽なものではないのだ。革命によつて高まる愛国主義は、しばしば戦争につながる。それを如何に防ぐかといふのがアランの問…

市民の抵抗

アラン(1868-1951)が市民の抵抗について書いてゐる(1927年4月のプロポ)。これだからフランス人はうるさいのだ、と納得するとともに、民主主義のあり方やそれを維持するための手間について考へさせられる。 「法則(法律)とは、諸物の性質から派生する必然…

立派な総理大臣を選ぶために私達にできること

日本の政治の現状に満足してゐる人は殆どゐないだらう。しかし、その現状を変へるために何か具体的な行動を起こした人も、余り多くはあるまい。 この世の中に、放つて置いて自然に良くなるものはない。エントロピー増大の法則ではないが、日々の手入れを怠れ…

エリートの衰亡(経営者の場合)

日本のエリートの質が落ちてゐるのは、公務員に限らない。会社の経営者達も、かつての社会的な責任感を失つてゐるやうに思はれる。 少し前まで、日本の経営者の基本的な責任は、雇用を確保することであつた。景気が悪くても、コスト削減等あれこれと工夫して…

疑ふことを知らぬ体制派と従ふことを知らぬ反対派

東電福島原発の事故に関する議論を見てゐて、推進派は疑ふことを知らず、反対派は従ふことを知らない、といふ印象を持つた。そして、アラン(1868-1951)が、権力者には従はなければならないが、心まで許す必要は無い、といふ趣旨の文章を書いてゐるのを思ひ出…

エリートの衰亡(公務員の場合)

これまでの日本が「お上」任せで何とかやつて来られたのは、戦後の混乱が落ち着いた後には、政府の力が問はれるやうな大事件が比較的少なかつたことと、かつての日本のエリートがそれなりに立派だつたことに依る。何故、日本のエリートは堕落したのか。国家…

大震災が露はにした日本の弱点

3月11日の大震災は、日本の抱へてゐた弱さを露はにした。原子力発電所の安全対策は、その悲しい例の一つだが、言論の貧しさも、今後の大きな課題だと感じた。 今回の大震災への政府の対応には、批判が多い。確かに拙さが目立つ。しかし、揚げ足取りしかしな…