日本と世界

民主主義の衰退

コロナウイルスへの対応や、アフガニスタン撤退での米国の失態を、中国が民主主義の失敗と宣伝してゐる。確かに、どちらも余り褒められたものではない。民主主義がうまく動いてゐないと見えるのは何故だらうか。 東西冷戦の時代にも、民主主義の弱さが指摘さ…

東京オリンピック開催の目的

The Economist誌が、日本政府がオリンピック開催に固執する理由についての記事を出した。The impulse behind Japan’s decision to go on with the Olympic gamesといふ題で、2022年に冬季オリンピックを開催する中国には負けたくないといふ気持ちなどの「愛…

『歴史とは何か』(II-3 歴史:過去を伝へる)

歴史教育の問題は、近隣諸国との関係もあつて、なかなか難しい。最近では、「自虐史観」に反発して、日本人が自分の国を誇りに思へるやうな歴史を書かうといふ動きもあり、『日本国紀』はよく売れたらしい。他方で、この本には様々な批判も出てゐるやうだ。…

與那覇潤『中国化する日本』(II-3 歴史:過去を伝へる)

與那覇潤氏の『中国化する日本』を読んだ。2011年に出され、評判になつた本で、10年近く遅れての読書となり、今更の感はあるが、非常に面白かつたので、感想を書いて置く。宋の時代に封建制から郡県制に移行し、皇帝独裁政治と経済社会の自由化を実現した中…

中江兆民にとつての哲学

中江兆民(1847-1901)が、『一年有半』の中で「日本に哲学なし」と言つたことは良く知られてゐる。兆民の念頭にあつた哲学とは、どのやうなものなのだらうか。 わが日本古より今に至るまで哲学なし。本居篤胤の徒は古陵を探り、古辞を修むる一種の考古家に過…

御進講録

『御進講録』といふ本がある。吉川幸次郎(1904-1980)の師である狩野直喜(1868-1947)が大正天皇、昭和天皇に御進講した際の原稿を整理して1984年に出版されたものだ。「尚書堯典首節講義」「古昔支那に於ける儒学の政治に關する理想」「我國に於ける儒學の變…

時代劇

NHK大河ドラマ「麒麟がくる」に帰蝶役で出演してゐる川口春奈さんは、よく知られてゐる経緯で急遽代役になつたのだが、好評のやうだ。同じNHKの「鶴瓶の家族に乾杯」で岐阜県を訪れるのを見た。ご本人は言ふまでもなく大変チャーミングな女性なのだが、帰蝶…

COVID-19の現状 2020.4.10

新型コロナウイルス死者/感染者 COVID-19の感染拡大は続いてゐる。4月10日現在のグラフは上記のとほり。感染者数では米国が最大で、死者数でもまもなく欧州の国々を追ひ抜くだらう。 グラフにあるやうに、感染者が増えると死者が増えるといふ当然の傾向…

PCR検査を増やすべし!といふ議論の盲点

PCR検査を増やせ、といふ論が続いてゐる。この主張には尤もなところもあるのだが、盲点もある。少し整理してみよう。 情報は多いほど良いといふ信念 「もつと検査を」論の根本にあるのは、情報は多いほど良い、といふ信念だ。「情報至上主義」と名付けて置か…

COVID-19の死者数と感染者数が示すもの

COVID-19の死者数と感染者数の比率をみると、国によつてバラツキがある。Worldometerの数字(March 06, 2020, 08:35 GMT時点)をもとにグラフを描いてみると、下のやうになる。直線は死亡率1%に相当する傾きを持つ。その位置は、ほぼ平均的な位置になるや…

気候変動にどう対するか-古気候学が示すもの-

立命館大学 古気候学研究センター長の中川毅教授の講演「現代の「おだやか」な気候はいつまで続くのか」と題する講演を聴いた。福井県にある水月湖の底の堆積物に現れる縞模様「年縞(ねんこう)」の研究で知られる人だ。講演の概要は、以下のとほり。*1 1…

津野海太郎氏の連載コラム

新潮社のWebマガジン「考える人」に、津野海太郎氏の「最後の読書」といふ連載コラムがある。10月18日の記事は「高級な読者と低級な読者」と題されて、日本の読書史概観とでも言ふべき内容だつた。 「だれにとつても本を読むのはいいことなのだ」、「ただし…

昭和天皇「拝謁記」

NHKの昭和天皇「拝謁記」は興味深い番組だつた。NHKのサイトには番組の情報が載せられてゐて、放送ではカットされた情報も見ることが出来る。 「拝謁記」は、初代宮内庁長官だつた田島道治が残した昭和天皇との対話の記録で、これまで知られてゐなかつた事が…

『徳富蘇峰 終戦後日記』を読む

終戦の日が近づいたこともあり、『徳富蘇峰 終戦後日記』を読んだ。徳富蘇峰(1863-1957)は、戦前に活躍したジャーナリスト、歴史家で、戦前の一大論客。大日本言論報国会の会長などを務め、戦後は戦争責任者として批判された人である。そんな蘇峰が終戦後に…

ゲンロンβ33を読む

読み応へ十分のゲンロンβ33 ゲンロンβ33は、大変充実した内容になつてゐる。冒頭の3つの記事だけで、おつりが来る感じ。東浩紀氏の「テーマパークと慰霊」を読むと、大連といふ街を訪れて見たくなり、テーマパークの怪しさ、地に足の着かない感じと本物…

日本の哲学

フランスのラジオ放送局 France Culture で日本の哲学に関する放送を流してゐた。「哲学への道」Chemin de la Philosophie といふ番組で、4回の放送は、それぞれ次のやうに題されてゐた。 1) サムライの倫理 L'éthique des samouraïs 2) ロラン・バルト「表…

論壇 ゲンロンβを読んで

1976(昭和51)年に、小林秀雄が「新潮社八十年に寄せて」といふ新聞広告用の文章を書いてゐる。全体で400字程度の短い文章だが、二段落からなるその最初の段落には、次のやうに書かれてゐる。 若い頃からの、長い賣文生活を顧みて、はつきり言へる事だが、私…

百聞は一見に如かず?

イスラム過激派と思しき風貌の男性がマリア像を壊す動画が流れてゐる。さて、これを見て何を思ふか。単純な反応は、「イスラム教徒は酷い奴らだ」とか、「狂信者は困つたものだ」とかいつたものだらう。 しかし、動画は10秒ほどで、何の説明もついてゐない。…

正義と戦争

Yuval Noah Harari氏の"Sapiens: A Brief History of Humankind"(邦訳「サピエンス全史」)を読み始めた。ホモサピエンスがネアンデルタール人よりも優位に立てたのは大きな社会組織を作ることに成功したからであり、その基礎となったのは神話mythである、…

軍と民主主義

アランの1923年4月10日付のプロポ。 ルイ十四世は組織や代表者による要求と見えるものを受け付けなかつた。しかし一人一人には好意的で、耳を傾けることもあつた。恩恵を求めてゐるのが明らかで、服従が問題にされない場合には、特にさうだつた。私は、部隊…

三つの人種

アランが1921年9月19日に書いたプロポ。 オーギュスト・コントが人種について述べたことは、今も考へてみる価値がある。誰でも自分の周りの人間を、知性、活動、情感のどれが勝つてゐるかで三種に区別できるやうに、人種も活動的な黄色人種、知的な白色人種…

ピラミッドとギリシャ神殿

アランが1923年3月20日に書いたプロポ。 ピラミッドは死を表してゐる。山のやうなその形から明らかだ。重力の働きに任せると積まれた石はピラミッドの形になる。だからこの形はあらゆる建造物の墓なのだ。恐ろしいことに、建築家は意図的に死に従つて建て、…

民主主義と戦争

1923年2月8日にアランが書いたプロポ。その一月ほど前の同年1月11日、ドイツの戦後賠償不払ひを理由に、フランス、ベルギーの部隊がルール地方を占領し、緊張が高まつてゐた。 「出来ることなら彼等を諭(さと)せ、諭せないのなら我慢せよ。」どんな事でも最…

集まつて議論することの価値

人が集まつて議論すれば良い考へが得られると思はれてゐるが、本当か。アランは悲観的な意見を述べてゐる。1923年1月19日に書いたプロポ。 人の集まりは私達に全てを求めて何も返さない。色々な団体が、どれも良い目的のものなのに、間も無く何も目指さず、…

聖夜

クリスマスイブに、アランが1922年12月20日に書いた文章を載せて置く。 クリスマスの夜、私達は何かを乗り越えるやう促される。この祭は決して諦めの祭ではない。緑の樹の明かりはどれも地上を支配する夜への挑戦であり、揺籠の幼な子は私達の真新しい希望を…

政治を学ぶ

アランが1921年12月15日に以下の文章を書いてゐる。 誰も親を選んではゐないし、よく見れば友達さへも選んだのではない。選んで背が高く或いは低くなつたのではないし、金髪や茶色の髪になつたのでもない。事実を受け入れて、そこから活動しなければならない…

国の記憶

個人の記憶は自然に残るが、国の記憶は、世代が変はると消えて仕舞ふ。この自然の流れに反して国の記憶を残すためには、意識的な努力を続けることが必要だ。教育が、その基本的な手段となる。 日本の場合、幾つかの理由でこの国の記憶を保つ仕組みが揺らいで…

「慰安婦」問題とは何だったのか

大沼保昭氏の『「慰安婦」問題とは何だったのか』を読む。慰安婦の問題が、また騒がしくなつてゐるので、一度勉強をしようと思つて読んだのだが、痛感したのは、この問題が今も生きてゐて、日々新しい歴史が作られてゐる、といふことだつた。本の題名は「何…

建前と理念

橋下徹大阪市長の従軍慰安婦を巡る発言が話題になつてゐる。ツイッターで橋下氏の発言を読んでゐると、建前と理念との違ひが理解されてゐないことを痛感する。この点を明確にしない限り、日本が世界の一等国になることは無理だらう。また、自国の過去の行ひ…

なでしこ讚

ロンドンオリンピックでのサッカー日本女子チームの活躍については、既に多くが語られてゐるので、今更の感は否めないが、やはり一言言ひたくなつたので、書いておく。 サッカー女子の決勝戦は日本時間の8月10日(金)の午前3時45分に始まり5時32分…