正しい知識を得るための仕組み(II-2 枠組の構築:政治)

某国大統領が多用することで「フェイクニューズ」といふ言葉が流行つたが、フェイクではない本物のニュース、正しい知識*1を得るためには何が必要だらうか。 知識は空から降つては来ない 先づ「人の世の中に役立つもので、何もせずに手に入るものなど無い」…

デカルトとパスカル(I-1 前向きな心)

デカルトとパスカルの一致点 思想の体系化の最初に「前向きな心」といふ区分けを設けたが、全ての中心に私がゐて、その私とは私の心だ、といふものの見方は正しいものなのか。科学者の一部には、心は脳の働きに過ぎず、意識は幻に過ぎない、といつた主張も見…

体系化とは

どこに足場を求めるか 「使ふ側から見た思想の体系」を考へると書いたが、体系といふからには、主な問題を漏れなく取り上げるとともに、全体として、ある程度の整合性がなければならない。そして何より、体系の要素となる思想をどこから持つて来るのか。人々…

使ふ側から見た思想の体系

思想*1の体系について語られるとき、多くの場合に、学者の立場から見た体系が取り上げられる。言はば供給側の論理だ。他方で、幸せに生きるために思想を使ふ側、需要側からの体系化といふものもあり得るだらう。ここでは、そんな体系、あるいは整理の仕方の…

日本の思想の基盤

思想の共通基盤を持たない日本 丸山眞男(1914-1996)が『日本の思想』に、かう書いてゐる。 一言でいうと実もふたもないことになってしまうが、つまりこれはあらゆる時代の観念や思想に否応なく相互連関性を与え、すべての思想的立場がそれとの関係で——否定を…

『旧約聖書』の読み方(承前)

第3回は「雅歌は最初のエロティックな詩か」といふ題で、Olivier Abel氏が話をした。「雅歌」は旧約聖書の一章で、英訳聖書では Song of Solomon といふ題になつてゐる。文字通り読めば男女の愛の歌であり、「ねがはしきは彼その口の接吻をもて我にくちつけ…

『旧約聖書』の読み方

France Cultureのラジオ番組Chemin de la philosophie(哲学への道)で、先週は『旧約聖書』に関する4つのテーマを放送してゐた。『旧約聖書』についての知識を殆ど持たない身には興味深い話ばかりだつたので、メモして置く。 第1回は「アブラハムと犠牲、…

山崎正和(1934-2020)

山崎正和氏が亡くなつた。 鼎談書評 山崎氏を知つたのは、1980年代前半に文藝春秋に連載されてゐた「鼎談書評」といふ記事だつた。丸谷才一(1925-2012)、木村尚三郎(1930-2006)、山崎正和の三人が、それぞれの推薦図書を持ち寄つて、意見を交はすといふ趣向…

丸山眞男『福沢諭吉の哲学』

丸山眞男*1(1914-1996)は福沢諭吉(1835-1901)の哲学に関して、「福沢に於ける「実学」の転回」、「福沢諭吉の哲学」といふ二つの論文を書いてゐる。岩波文庫に収められたこれらの文章を読みながら、思ひついたことを書き留めておく。 「福沢に於ける「実学」…

科学者と哲学者

Jimena Canalesといふ人の書いた”The Physicist & the Philosopher: Einstein, Bergson, and the Debate That Changed Our Understanding of Time”といふ本を読んだ。1920年代にアインシュタイン(1879-1955)とベルクソン(1859-1941)との間に起きた時間をめぐ…

7月27日のゲンロンカフェ

ゲンロンカフェは株式会社ゲンロンが運営してゐるイベントスペースで、様々な座談会などが企画されてゐる。7月27日に行はれた茂木健一郎氏と東浩紀氏の「日本のコロナと脳」と題された回を録画で視聴したので、感想を書いて置く。なほ、以下の文章は視聴した…

ベルクソンと量子力学

ベルグソン(1859-1941)の哲学と量子力学との関係については、小林秀雄(1902-1983)が『感想』と題されたベルクソン論の中で取り上げてゐる。引用の多い『感想』の中で、これは独創的な部分ではないかといふことを他の場所に書いたことがあるが、調べて見ると…

中江兆民にとつての哲学(承前)

兆民の哲学は『続一年有半』で窺ひ知ることができ、唯物論的なものであると書いたが、少し詳しく見ると、単純な唯物論ではないところが面白い。 精神とは本体ではない、本体より発する作用である、働きである。本体は五尺軀である、この五尺軀の働きが、即ち…

中江兆民にとつての哲学

中江兆民(1847-1901)が、『一年有半』の中で「日本に哲学なし」と言つたことは良く知られてゐる。兆民の念頭にあつた哲学とは、どのやうなものなのだらうか。 わが日本古より今に至るまで哲学なし。本居篤胤の徒は古陵を探り、古辞を修むる一種の考古家に過…

カール・シュミット『政治的なるものの概念』

今朝の朝日新聞の大澤真幸氏による連載コラム「古典百名山」にカール・シュミット(1888-1985)の『政治的なるものの概念』が取り上げられてゐた。シュミットはここで敵と友の区別が政治の本質であることを主張してゐる。 政治的なものとは何かを定義するため…

御進講録

『御進講録』といふ本がある。吉川幸次郎(1904-1980)の師である狩野直喜(1868-1947)が大正天皇、昭和天皇に御進講した際の原稿を整理して1984年に出版されたものだ。「尚書堯典首節講義」「古昔支那に於ける儒学の政治に關する理想」「我國に於ける儒學の變…

日本人の脳、日本の言葉

角田忠信(1926-)といふ人が『日本人の脳』といふ本を出したのは1978年、今から40年ほど前の事だ。2016年には『日本語人の脳』といふ本も出てゐる。角田氏は、独自の試験方法を用ゐて、日本語(及びポリネシア語)を母国語とする人は、その他の言語を母国語とす…

日本人と漢籍

渡部昇一(1930-2017)『実践快老生活』の第五章は「不滅の「修養」を身につけるために」と題されてゐるが、その中に、高齢者に適してゐるのは「人間学」であり、人間学の中心になるのは古典や歴史だ、といふ話が出て来る。 ここで渡部氏が古典として例に挙げ…

老後の過ごし方

老後の生活に関する渡部昇一(1930-2017)の本を二冊読んだ。義弟が貸してくれたのである。渡部昇一については、やや極端に右寄りの論客といふ印象を持つてゐて、何となく毛嫌ひしてゐた人なのだが、読んでみると同感するところが多かつた。 『知的余生の方法…

時代劇

NHK大河ドラマ「麒麟がくる」に帰蝶役で出演してゐる川口春奈さんは、よく知られてゐる経緯で急遽代役になつたのだが、好評のやうだ。同じNHKの「鶴瓶の家族に乾杯」で岐阜県を訪れるのを見た。ご本人は言ふまでもなく大変チャーミングな女性なのだが、帰蝶…

COVID-19の不思議

COVID-19については未解明の問題が多い。といふより、殆ど、何も分かつてゐない。 事実として確認できることで、不思議な事の一つは、「先進国」で蔓延し、死者も多く出てゐることだ。中心国や発展途上国での感染はこれから拡大するといふことも十分に予想さ…

COVID-19の現状 2020.4.10

新型コロナウイルス死者/感染者 COVID-19の感染拡大は続いてゐる。4月10日現在のグラフは上記のとほり。感染者数では米国が最大で、死者数でもまもなく欧州の国々を追ひ抜くだらう。 グラフにあるやうに、感染者が増えると死者が増えるといふ当然の傾向…

COVID-19 についての覚書

COVID-19についての覚書の追加。このブログの運営者は何らの医学的専門知識を有しない者ですから、以下、その前提でお読み下さい。書かれてゐる内容に基づいて取られた行動については、一切の責任を負ひません。専門家のご批判は歓迎。尤も、そんな暇な人は…

PCR検査を増やすべし!といふ議論の盲点

PCR検査を増やせ、といふ論が続いてゐる。この主張には尤もなところもあるのだが、盲点もある。少し整理してみよう。 情報は多いほど良いといふ信念 「もつと検査を」論の根本にあるのは、情報は多いほど良い、といふ信念だ。「情報至上主義」と名付けて置か…

COVID-19の流行の拡大が日本で(今のところ)比較的緩やかな理由

日本の現状 Financial Timesの記事”Coronavirus tracked: the latest figures as the outbreak spreads” に累計の患者数の推移を国別に示した下の図が出てゐる。 欧米諸国が似たやうな線で拡大を続けてゐるのに対して、日本の流行拡大は比較的緩やかであるの…

COVID-19の死者数と感染者数が示すもの

COVID-19の死者数と感染者数の比率をみると、国によつてバラツキがある。Worldometerの数字(March 06, 2020, 08:35 GMT時点)をもとにグラフを描いてみると、下のやうになる。直線は死亡率1%に相当する傾きを持つ。その位置は、ほぼ平均的な位置になるや…

気候変動にどう対するか-古気候学が示すもの-

立命館大学 古気候学研究センター長の中川毅教授の講演「現代の「おだやか」な気候はいつまで続くのか」と題する講演を聴いた。福井県にある水月湖の底の堆積物に現れる縞模様「年縞(ねんこう)」の研究で知られる人だ。講演の概要は、以下のとほり。*1 1…

津野海太郎氏の連載コラム

新潮社のWebマガジン「考える人」に、津野海太郎氏の「最後の読書」といふ連載コラムがある。10月18日の記事は「高級な読者と低級な読者」と題されて、日本の読書史概観とでも言ふべき内容だつた。 「だれにとつても本を読むのはいいことなのだ」、「ただし…

時間の定義

技術の進歩で時間と私達との関係が変はらうとしてゐる。 情報通信研究機構が公開してゐる標準時間のページJST Clockを開くと、日本標準時(JST)と並んで協定世界時(UTC)*1国際原子時(TAI)*2が表示される。日本標準時と協定世界時は9時間ずれてゐるだけだが、…

昭和天皇「拝謁記」

NHKの昭和天皇「拝謁記」は興味深い番組だつた。NHKのサイトには番組の情報が載せられてゐて、放送ではカットされた情報も見ることが出来る。 「拝謁記」は、初代宮内庁長官だつた田島道治が残した昭和天皇との対話の記録で、これまで知られてゐなかつた事が…