S. Kauffman "Reinventing the Sacred"

Stuart Kauffman の "Reinventing the Sacred" を読む。Science 誌の紹介記事で興味を引かれ、米国の amazon.com で中身を見て(何故か、日本の amazon.com には、中身が載つてゐない)、驚いた。まるでベルクソンぢやないか!

 

例へば、かういふ一節がある。

Part of my goal is to discuss newly discovered limitations to the reductionism that has dominated Western science at least since Galileo and Newton but leaves us in a meaningless world of facts devoid of values. In its place I will propose a worldview beyond reductionism, in which we are members of a universe of ceaseless creativity in which life, agency, meaning, value, consciousness, and the full richness of human action have emerged.

私の目標の一つは、新しく発見された還元主義の限界について述べることだ。還元主義は、少なくともガリレオニュートン以降の西洋の科学を支配してきたが、我々を、価値といふものの欠けた、意味を持たない、事実だけの世界に放り出すものである。その代りに、私は還元主義を超えた世界観を提案する。この観方では、我々は絶え間ない創造の宇宙の一員であり、そこでは生命、主体、意味、価値、意識、そして、人間の活動の豊かな意味が生まれ出るのである。

 

早速、購入し一読。当然のことながら、Kauffman は、ベルクソンではないことが分かる。Kauffman は、Wikipedia によれば、次のやうな人である。(Wikipedia には、当てにならない記事もあるが、これは良く書かれてゐると思ふ。)

 

Stuart Alan Kauffman (28 September 1939) is an US American theoretical biologist and complex systems researcher concerning the origin of life on Earth. He is best known for arguing that the complexity of biological systems and organisms might result as much from self-organization and far-from-equilibrium dynamics as from Darwinian natural selection, as well as for proposing the first models of Boolean networks.

スチュアート・カウフマン(1939年9月28日生まれ)は、米国の理論生物学者で、地上の生命の起源に関する複雑系の研究者である。彼は、生物システムや生命体の複雑さは、ダーウィン流の自然淘汰だけではなく、自己組織化や非平衡動学の結果として生まれたものだと主張したこと、及び、最初のブール型ネットワークのモデルを提案したことで知られる。

 

読んでみると、グローバル化が進む一方で、宗教間の対立が激化する現状に懸念を持ち、それに対する一つの回答として、伝統的な宗教における創造主としての神ではなく、人類が共通に持ち得る価値観として、自然の創造性そのものを「神」と呼ぶことを提案するものであつた。問題意識は良く理解できるが、内容的には、本人も言ふやうに、異論の多い書物だらう。

 

複雑な系では、宇宙誕生以来の時間をかけても、そのごく一部しか実現できないといふ「非エルゴード性」があり、かうした事象には、繰り返しや予測可能性を前提とした科学の方法は当てはまらない、とか、preadaptiveness は還元主義では説明できない、といつた論点はおもしろいが、人文社会的な議論は、専門外の部分だけに、深みが欠けるやうだ。

 

還元主義が、どれだけ世の中を毒してゐるのか、評価は難しいが、将来の予測が不可能だといふ現実を認識して、我々は謙虚になるべきだ、といふ主張は、正しい。