12月8日付け産經新聞のコラム「知の先端」で、大阪大学大学院の四方(よも)哲也教授が紹介されてゐる。「進化論の前提とされてきた適者生存の考えに、独自の「進化実験」で見直しを迫った」人だ。記事の一部を引用する。
生物間の相互作用(相性)が共存関係を生み出すことに関心を寄せた四方さんは、新たな実験を発想した。森に生息する粘菌と哺乳類の体内で生きる大腸菌を、強制的に遭遇させたのだ。
最初は与えられた養分を食べて大腸菌が増殖し、次の段階では大腸菌を餌にする粘菌が増えていく。ここまでは予想通り。この後、大腸菌を食べ尽くしてしまえば、粘菌も滅んでいくしかない。
ところが、「食うか、食われるか」の敵対関係にあった粘菌と大腸菌は、想像もしなかった相互作用を示した。「大腸菌は、粘菌が生活しやすいように姿を変え、互いの分泌物を食べながら共生を始めたのです」
互いに未知の生物との遭遇なので、大腸菌と粘菌のゲノムに共生のプログラムが組み込まれていたとは考えられない。大腸菌が、姿を変えたことも大きな驚きだった。
ダーウィン流の進化論は、適者生存や競争を重視するが、ここでは生物が自発的に、それも非常に短期間で、協力関係を築いてゐる。進化における協力関係の重要性については、Lynn Margulis といふ米国の女性研究者が、細胞内小器官の由来に関連して、従来から主張してゐるが、四方教授の研究は、かうした考へ方を裏付けるものだと言へる。
生物は、環境が変わるとゲノムの指令に基づいて作るタンパク質の量や割合を変えることも、四方さんは実験で確かめた。だから、ふらふらと姿を変えながら、都合のいい状態に落ち着くこともできる。こうした柔軟性を四方さんは関西弁で「ええかげん」と形容する。