MRI で他人の痛みが分かるか

1月9日付の Science 誌(Vol. 323. no. 5911, p. 195)に、fMRI画像が、裁判の証拠として使はれようとした話が載つてゐる。工場の事故で化学的な火傷を負つた人が、その結果、慢性的な痛みを感じるやうになり、補償を要求した事案で、その弁護士が、痛みを感じてゐる証拠として、fMRIの画像が使へないかと、神経学者に相談したといふのである。

学者の答は、否定的で、痛みを感じてゐるときには、常に脳の或る部分の活動が高まるが、その逆が正しいかどうかは、未だ証明されてゐないから、といふことらしい。痛みは、個人差が大きく、不安や気にするかどうか等により、左右されるし、実際に痛みを感じてゐる場合と、痛みを想像した場合に、脳の似たやうな場所が活動するので、偽装される恐れがあるからだ。

他方で、無関係な脳の画像を見せただけで、素人には、人の行動に関する話が、より信頼すべきものに見える、といふ研究(Science, 13 June 2008, p. 1413)もあり、陪審員の判断が影響を受けるのではないか、といふ懸念を述べる学者もゐる、とも書かれてゐる。

ベルクソンは、脳を見ることで分かるのは、心の全てではなく、心の動きが身体の動きに現れた部分だけであり、台詞が聞こえない状態で劇を見てゐるやうなものだ、と言つた。痛みは、身体的な要素が大きな現象なので、或る程度の推測は可能かも知れないが、偽装は判別できるだらうか。fMRIのやうな機械の進歩により、実際に、どこまで心の状態が分かるやうになるのか、興味深いところだ。

素人としては、脳の画像を見ただけで、もつともらしく見えてしまふ、といふ事実も、しつかりと心に留めておくべきだらう。