正しいとは

物事の正しさはどうすれば分かるか。

 

正しいとは、現実に即してゐること、規則に従つてゐることだ。自然科学的な正しさと倫理的な正しさの二つを区別して考へるのが良いだらう。

 

先づ、前者について考へよう。例へば、地動説の正しさは、どうすれば分かるか。

 

教科書に書いてある、といふのはここで求められてゐる答ではない。知識の専門化が進んだ今日、私達は大半の事柄について、専門家の意見を正しいものとして受け入れてゐる。自分の力で全てのことの真偽を確かめることは不可能だからだ。とは言へ、専門家が正しいと認めてゐるのには理由があるはずだ。また、正しさを決める手続があるはずだ。

 

地動説について言へば、天動説よりも天体の動きを無理なく説明できるといふことが、その正しさを示すと考へられる。惑星の動き、日蝕や月蝕などの現象が、素直に理解できる。

 

生物の進化はどうだらうか。世の中には、キリスト教の聖書の記述と異なるなどの理由で進化を否定する人達がゐる。しかし、化石の比較などの伝統的な手法に加へて、最近ではDNAの分析からも、共通の祖先から様々な種が分かれて出て来たことは、さらに確かな事実となつた。

 

いづれにしても、事実は空から降つて来たのではない。無数の観察や実験を経て固められて来たのだ。他方、どんな事実も仮説から出発し、仮説に留まると言ふこともできる。

 

相対性理論量子力学が出て来るまでは古典力学は完全な理論だと見なされてゐた。しかし、物体の速度が小さい場合や、量子的な効果が無視できる場合の近似的な解に過ぎないことが明らかになつた。獲得形質は遺伝しないといふ遺伝学の定説も、エピジェネティクスなどにより、必ずしも正しくないことが明らかになりつつある。

 

自然科学の世界では、全ての説は仮説として始まり、実験や観察を積み重ねることで、より確かな説となるが、あくまで経験的な真実に留まるのであり、私達には最終的、絶対的な真実を手にすることはできない。

 

註: 数学は絶対的な真偽を論じる学問だが、それは数学が自然科学ではなく、一種の論理学であることから来る。数や図形などを厳密に定義し、これらに対する概念的な操作でどのやうな結論が得られるかを演繹するのが、その役割だ。