時間の定義

技術の進歩で時間と私達との関係が変はらうとしてゐる。

情報通信研究機構が公開してゐる標準時間のページJST Clockを開くと、日本標準時(JST)と並んで協定世界時(UTC)*1国際原子時(TAI)*2が表示される。日本標準時協定世界時は9時間ずれてゐるだけだが、協定世界時国際原子時との間には、40秒弱の差がある。原子時計で計ると、元々時間の基準だつた太陽などの天体の動き(つまり地球の自転)にも変動があり、その差が「うるう秒」により調整されてゐるためだ。

国際原子時Wikipediaで調べると、「地球表面(ジオイド面)上の座標時の実現と位置付けられる。」といふ記述が出てくる。地球表面上と明記されてゐるのは相対性理論が示す速度や重力の効果によつて、どこで測るかによつて時間が異なるから。「実現」といふのは、理論的な時間ではなく実際に測ることの出来る時間、理論的な時計ではなく実際に作ることが出来る時計を意味してゐる。

一般の生活では協定世界時と、これに9時間を足した日本標準時で足りるのだが、GPS衛星のやうな高い高度を高速で移動してをり、その機能を発揮するために正確な時間が欠かせない物については、補正が必要となる。

たとえば300m/sの速度で飛行するジェット機では12時間のフライトで20ナノ秒の時刻差を生じるし,l0km/sの速度で1時間少々で地球を周回する低軌道人工衛星は一周ごとに20マイクロ秒ずつ時刻がずれていく.*3

ジオイド面といふのは、大まかに言へば地球の表面で測る時間だが、最近の天文学では、地球中心から見た時間や、太陽系の重心を原点とする時間など、研究の対象に応じて様々な時間が使ひ分けられてゐるらしい。以下の記事に詳しい説明が出てゐる。

Time scales in the context of general relativity

 

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様々な時間  (出典は上記のサイト)

時計の精度向上は現在でも続いてをり、東京大学大学院工学系研究科の香取秀俊教授のチームが開発してゐる光格子時計は、10-18秒まで測れるものを目指してゐる。この時計は、300億年に1秒しか狂はない。この宇宙が生まれたのは138億年前だと言はれてゐるので、この時計には狂ふといふ文字は無いとさへ言へる。

ここまで正確に時間が測れるやうになると、高度が上がると地球の重力が小さくなることで生じる極わづかな時間のずれも測定でき、逆に時間を計ることで高さの違ひが分かる。すでに、5cmの精度の測定実験が成功してゐる。*4

アインシュタインは自らが予言した重力波が実際に測定されることは技術的に不可能かも知れないと考へてゐたらしいが、3年前に最初の観測が成功した。一般相対性理論の効果がセンチメートル単位の高さの測定に使はれると知つたら、さぞかし驚き、かつ喜んだだらう。

*1:英語ではCoordinated Universal Time、フランス語ではTemps Universel Coordonné。UTCはどちらの頭文字でもない。

*2:こちらはフランス語Temps Atomique Internationalの頭文字。

*3:通信総合研究所季報 Vol.45Nos.1/2 pp.103-108

*4:超高精度の「光格子時計」で標高差の測定に成功