気候変動にどう対するか-古気候学が示すもの-

立命館大学 古気候学研究センター長の中川毅教授の講演「現代の「おだやか」な気候はいつまで続くのか」と題する講演を聴いた。福井県にある水月湖の底の堆積物に現れる縞模様「年縞(ねんこう)」の研究で知られる人だ。講演の概要は、以下のとほり。*1

1.中川教授の講演の概要

1.気候変動は人の力を超えた要因により生じる。

地球の気候を調べると、1億5千年前後での周期的な変動、約10万年周期の変動が見られ、これらは太陽系の銀河系における移動(スヴェンスマルクの仮説*2)や地球軌道の変化(ミランコビッチ理論*3)などによつて生じると考へられる。かうした変動を人間の力で止めることは不可能である。

2.気候変動は急激に起こり、予測は困難である。

気候変動は非線形のカオス的な現象であり、予知できない可能性が高い。過去のデータを見ても、氷期は全世界で同時に本当に突然終はつた。氷期は不安定で寒い時代であり、間氷期は安定で暖かい時代である。氷期間氷期の相変化は突然に起きる。

ICCPの、最悪の場合、今後100年間で5℃気温が上昇するといふ予測は、過去数万年から数百万年の動きから見ても経験がないほどの激しい変化で、実際にかうした変化が起こるのかどうかは疑問が残る。

特に、ICCPのモデルは最近数百年といふ限られたデータに基づいたシミュレーションであり、地球を冷やす効果を持つ雲の影響をうまく取り込めないといふ欠点を持つてゐる。

3.最近の気候変動には人間活動の影響が見られるが、宇宙の大きな力には勝てないので、多様性を持つことが人類が生き延びる道である。

但し、地球が温暖化してゐない、といふことではない。平均気温の上昇は観測の結果として明白だし、過去の動きから予想される氷河期の到来が遅れてゐることも確かである。これは、産業革命以降のCO2増加に留まらず、数千年前から森林伐採や水田耕作などの人間の活動が影響を与へて来たからだといふ説(ラディマン仮説)もある。

今の「安定で温暖な時代」はいつか終はりを迎へる。それを予測する事は難しいし、対策にも限界がある。それでも生き延びるためのカギは、おそらく多様性の中にある。

 

2.感想と考察

以上が、中川教授の講演の概要。気候変動の問題は、政治的にも大きな問題になつてゐるが、これからの気候変動の動きについては専門家の間でも議論があるし、どのやうな対策が望ましいかについては、利害が絡むので非常に難しい問題だ。

中川氏の説は、気候変動の大きな原因は宇宙的な力であり、人間の活動はむしろ氷期の到来を遅らせてゐる、といふもので、CO2削減などの対策に疑問を投げかけてゐると受け止めて良いだらう。

IPCCの予測についても、何万年もの過去の動きと比較して急激過ぎるといふ主張から、シミュレーションに問題があり、現実には未知なメカニズムでそれほど急激な気温の上昇が抑へられるのではないかと考へて居られるやうに感じた。

CO2排出抑制派の人達からすれば、さうした過去に例を見ないほど急激な変化の恐れがあるからこそ、速やかな対策が必要だといふことになるだらう。

中川氏も、何もしなくても良いと言つてゐる訳ではない。ただ、(これは全くの想像だが)CO2抑制は費用も大きく、効果も限定的だといふ意見のやうだ。

他方で、中川氏の提唱する多様化も、容易ではない。人類の活動による地質学的な変化を反映し,現在を人新世(Anthropocene)とする提案が出るほど、人間の活動は地球環境を変へてゐる。人口の増加と、より良い生活をしたいといふ人間の欲の結果だ。多様性を維持するといふのは、私達の生活を大きく変へることを意味するだらう。

*1:但し、録音したわけでも正確なメモを取つたわけでもないので、正確性を欠く恐れあり。また、見出しや()内の説明や脚注は私がつけたもの。特に見出しは、講演者が明確には言はなかつたことを、敢へて断言調に書いてゐる。

*2:その正否については議論が続いてゐるらしい。例へばここを参照。

*3:この理論を深める研究の例がここにある。