ルイ十四世は組織や代表者による要求と見えるものを受け付けなかつた。しかし一人一人には好意的で、耳を傾けることもあつた。恩恵を求めてゐるのが明らかで、服従が問題にされない場合には、特にさうだつた。私は、部隊長達を観察して本物の権力を知つてから、かうした事柄がよく分かつた。どの部隊長も下位の者達を極めて厳しく支配し、責任を取らせ、何も渡さなかつた。不服を申し立てられることなく紙一枚で郵便担当下士官を砲手長に就かせ、ワインを計つてゐる人間を砲撃観測所に送ることができれば、難しい事ではない。部隊の人間は、個人の立場で話せば簡単に受け付けられ、何時でも話を聴いて貰へた。しかし、戦友を代弁してゐると見えれば、スープについての不平を述べるのでも、力づくや脅しで直ぐに追ひ返された。私達の政治で力を持つ人達は全くこの逆を行つてゐる。しかし、多少とも頭があれば、やがてこの体制そのものが革命的であることが判り、いつも上に述べたやうな軍隊の権力を羨むだらう。恩恵さへ与へれば人が思つてゐる以上に愛され、命令はどんなものでも即座にほぼ自動的に遂行されるのだから。
軍隊の権力は、大きな動きでは、文民の権力に従ふ。しかし、軍制と階級については、さうは行かない。大臣は、軍人でなければ、この大きな機構を前にして部外者だと感じ、秩序を乱しはせぬかと心配になるだらう。そこでは文民の制度を統べるのとは全く異なる原則により全てが統制されてゐるのだ。同時に、大臣はあの王達の恐怖を味はふ。摂政だつたと思ふが、ある王が述べてゐた、全てを容易にする部隊の服従が、突然失はれるかもしれないと考へると感じる恐怖を。かうして軍は服従すると見えるが、実際は支配してゐる。実際に服従はするが、組織としては、ルイ十四世時代のやうに当時と同じ手段で、全てに命令を下す。その性質に従つて自らの存続だけを考へてゐるのだが、それで事は足りる。この階層構造の組織は、養はれることを求める。もつと上手く言へば、待つことなく、待つことができずに、自らを養ふ。 補給用の車両、准尉の視察、営倉の監視、衛兵の交代、全てが揺るぐことなく進み、既成事実と同じやり方で自分に引き付ける。軍人は何も提案しないし、求めもしない。在るのだ。その力強い在り方で、全ての存在を方向付けるのだ。組織化や変更、政治組織のやうな計画に依るのではなく、シーザーやアレキサンダーの時代と同じく、組織として出来上がり動かせないものとして。また、政治的な軍人が政治を動かすのではない。彼は色々な考へを持ち雄弁な人間だが、そのため、政治的な条件に従ふことになる。支配する軍人は、政治を行ふのではなく、行ひたいとも思はず、政治に係はらないことを自慢する。彼は命令を待つ。しかし補給を待つことはない。切り離されてをり、大食ひなのだ。その力であらゆる場所を占領し、茂みの鹿のやうに、そのゐる場所の全てに自分の形を伝へる。かうした原因から、文民政権の従順さが理解できる。物を知らないか全てを混同してゐる時には無闇に言ひ争つてゐて、決意を固め先が見えるに従つて、直ぐに無言で従ふ。かうして、内政の問題は全く外政の問題に従属してをり、人々は平和を追ひ求めることで自由を見出し、他の道はないのだと分かる。