II-3 歴史:過去を伝へる

民主主義についてのチャーチルの言葉

「民主主義は最悪の政治形態である。ただし、過去の他のすべての政治形態を除いては。」といふのは、ウィンストン・チャーチル(1874-1965)の言葉としてよく知られてゐる。しかし、調べて見ると、これは元々チャーチル自身の言葉ではないやうだ。 この言葉が…

本当の話はどこで聞けるのか

日本はなぜ戦争に敗けたのか 要らない書物を整理しようとして、『文藝春秋』2005年11月号の特集「日本敗れたり あの戦争になぜ負けたのか」を見つけ、捨てる前に読み返してみた。半藤一利、保坂正康、中西輝政、福田和也、加藤陽子、戸髙一成といふ面々の座…

『歴史とは何か』(II-3 歴史:過去を伝へる)

歴史教育の問題は、近隣諸国との関係もあつて、なかなか難しい。最近では、「自虐史観」に反発して、日本人が自分の国を誇りに思へるやうな歴史を書かうといふ動きもあり、『日本国紀』はよく売れたらしい。他方で、この本には様々な批判も出てゐるやうだ。…

與那覇潤『中国化する日本』(II-3 歴史:過去を伝へる)

與那覇潤氏の『中国化する日本』を読んだ。2011年に出され、評判になつた本で、10年近く遅れての読書となり、今更の感はあるが、非常に面白かつたので、感想を書いて置く。宋の時代に封建制から郡県制に移行し、皇帝独裁政治と経済社会の自由化を実現した中…

御進講録

『御進講録』といふ本がある。吉川幸次郎(1904-1980)の師である狩野直喜(1868-1947)が大正天皇、昭和天皇に御進講した際の原稿を整理して1984年に出版されたものだ。「尚書堯典首節講義」「古昔支那に於ける儒学の政治に關する理想」「我國に於ける儒學の變…

昭和天皇「拝謁記」

NHKの昭和天皇「拝謁記」は興味深い番組だつた。NHKのサイトには番組の情報が載せられてゐて、放送ではカットされた情報も見ることが出来る。 「拝謁記」は、初代宮内庁長官だつた田島道治が残した昭和天皇との対話の記録で、これまで知られてゐなかつた事が…

『徳富蘇峰 終戦後日記』を読む

終戦の日が近づいたこともあり、『徳富蘇峰 終戦後日記』を読んだ。徳富蘇峰(1863-1957)は、戦前に活躍したジャーナリスト、歴史家で、戦前の一大論客。大日本言論報国会の会長などを務め、戦後は戦争責任者として批判された人である。そんな蘇峰が終戦後に…

国の記憶

個人の記憶は自然に残るが、国の記憶は、世代が変はると消えて仕舞ふ。この自然の流れに反して国の記憶を残すためには、意識的な努力を続けることが必要だ。教育が、その基本的な手段となる。 日本の場合、幾つかの理由でこの国の記憶を保つ仕組みが揺らいで…

「慰安婦」問題とは何だったのか

大沼保昭氏の『「慰安婦」問題とは何だったのか』を読む。慰安婦の問題が、また騒がしくなつてゐるので、一度勉強をしようと思つて読んだのだが、痛感したのは、この問題が今も生きてゐて、日々新しい歴史が作られてゐる、といふことだつた。本の題名は「何…

組織にあつて正気を保つ方法

軍隊といふ組織の中の人間の生態について、アラン(1868-1951)がこんな文章を書いてゐる(1921年12月19日)。 軍の最高司令部の眼が曇つてゐることについては、法廷で驚くべき話が語られてゐる。自分が見たものを報告したことで指導部の構想を乱した部下が歓迎…

日韓関係の将来

昨晩、NHKで日韓の若者を集めた討論会を放送してゐた。かうした番組が成立するやうになつたといふこと自体、大いに喜ぶべきことだらう。 番組では、依然として根深い両国の歴史認識の差が浮き彫りになつた。一言で言へば、韓国の若者の見方は一面的であり…

河上徹太郎『吉田松陰 武と儒による人間像』

河上徹太郎『吉田松陰 武と儒による人間像』に眼を通す。幾つか、興味深い部分を引いて置かう。講談社文芸文庫から引用するので、「現代仮名づかい」。 これらの明治大正の文化的エリート(*)の著作を見ていると、わが文学の本質的な在り方が旧幕以来のそれと…

原爆、アフリカ

昨日の朝日新聞朝刊で印象に残つた記事。 ひとつは、コラム「被爆国からのメッセージ」3に載せられた、被爆医師の肥田舜太郎(ひだしゅんたろう)さん、92歳のお話。軍医として広島陸軍病院に赴任中に被爆。今年3月に医師を引退するまで6千人超の被爆者…

小泉信三『海軍主計大尉小泉信吉』

小泉信三(1888-1966)の『海軍主計大尉小泉信吉』を読む。戦争で亡くした一人息子を悼んで書かれたもので、当初は、三百部限定の私家版で出されたもののやうである。末尾に、昭和十八年春-同十九年四月二日とあり、戦死の報が届いたのは、昭和十七年十二月四…

桶谷秀昭『昭和精神史 戦後篇』

桶谷秀昭『昭和精神史 戦後篇』(文春文庫)を読む。戦前を描いた『昭和精神史』に続く力作だ。現代における精神の荒廃は日本に限つた現象ではあるまいが、この国の場合には、やはり敗戦が暗い影を落としてゐることが知られる。 昭和24年の『私の人生觀』…