2012-01-01から1年間の記事一覧

丸谷才一(1925-2012)

丸谷才一氏が亡くなつた。そもそも余り小説を読まないこともあつて、氏の小説の良い読者ではなかつたが、その評論からは多くのことを学んだ。 最初に丸谷才一といふ人に注目したのは、1980年代前半に文藝春秋に連載されてゐた鼎談書評を読んだ時だ。丸谷…

Nicolas Humphrey 氏の主張を読む 5

Fodor is undoubtedly asking the right question: “Why did God ― or natural selection ― make consciousness?” Yet, I would suggest the reason he finds it all so baffling is that he is starting off with completely the wrong premise. For he has…

Nicolas Humphrey 氏の主張を読む 4

But you do not need to understand what I have just said to get the message. Creating something that gives the illusion of having weird and wonderful properties need be no great shakes, certainly much easier than creating something that act…

Nicolas Humphrey 氏の主張を読む 3

A philosophical term of art may come in useful here. When people perceive, think, believe, and so on, these mental states are called “intentional states”, and whatever it is the particular state is about ― the percept, thought, belief ― is…

Nicolas Humphrey 氏の主張を読む 2

Consider what you might want to explain about the experience of looking at this object. Since it is at first sight so surprising and impressive, any one of us who did not know what was going on here might very well innocently ask the (bad)…

Nicolas Humphrey 氏の主張を読む 1

「知覚はどこにあるか」と題して書いてきた考へ方を元に、Nicolas Humphrey 氏が意識の問題にどう接近するかについて書いた文章"Getting the Measure of Consciousness"を批判的に読んでみよう。Nicholas Humphery 氏については、"Seeing red"といふ本の感想…

自由意思は幻想か

茂木健一郎氏が、今日の連続ツイートで「自由意思が存在しないという、世界観」について論じてゐる。中国や韓国とのつきあひにおいて相手に過剰な期待をしてはならない、といふ論旨には同意するのだが、次のやうな言ひ方には違和感を覚える。 国としての中国…

なでしこ讚

ロンドンオリンピックでのサッカー日本女子チームの活躍については、既に多くが語られてゐるので、今更の感は否めないが、やはり一言言ひたくなつたので、書いておく。 サッカー女子の決勝戦は日本時間の8月10日(金)の午前3時45分に始まり5時32分…

知覚はどこにあるか 3

1.知覚の投射といふ考へ方の限界について 知覚(今考へてゐる例では視覚)が脳内で生まれる現象だとすると、眼に見えてゐる世界の姿は、脳内から外部に投射されてゐると考へざるを得ない。すると、何故、これ程に形や色彩の変化に富んだ姿が生み出されるの…

知覚はどこにあるか 2

1.知覚には脳以外の身体の状態も重要な役割を果たしてゐる。 知覚において脳が大きな役割を果たしてゐることは確かだが、全てが脳の中にあるといふ考へ方、あるいは言ひ方には、弊害が多い。その一つが、脳以外の身体の役割を見失ふことだ。例へば、頭を回…

知覚はどこにあるか

科学者には、知覚は脳内の現象であり、例へば私の見てゐる茶碗は目の前の卓の上にあるのではなく、私の脳の中にある、と主張する人がゐる。しかし、これは誤りだと思はれる。この誤つた前提から、「脳内の現象から、何故、どうやつて色彩豊かな世界が構築さ…

倫理的な正しさ

倫理的な正しさは、どうすれば分かるか。 前回、「正しいとは、現実に即してゐること、規則に従つてゐることだ。」と書いた。倫理的な正しさの問題は、現実に即してゐるか否かではなく、決められた規則に従つてゐるかどうかである。殺すなかれ、盗むなかれ、…

正しいとは

物事の正しさはどうすれば分かるか。 正しいとは、現実に即してゐること、規則に従つてゐることだ。自然科学的な正しさと倫理的な正しさの二つを区別して考へるのが良いだらう。 先づ、前者について考へよう。例へば、地動説の正しさは、どうすれば分かるか…

「ある」といふこと

「ある」とはどういふことか。 世の中に確かにあるものは何だらうか。例へば、眼の前の石。躓けば痛いし、投げれば窓ガラスが割れる。しかし、石は原子の集合体に過ぎないので、本当にあるのは原子なのではないか。その証拠に、石の形はやがて崩れるが、原子…

日本衰退の原因 2

<教育の問題> 前回述べたやうな日本における社会的な教養の欠如は、学校教育が不適切であることが最大の要因だらう。教へるべきことを教へてゐないのだ。社会科について言へば、出来あがつた制度については教へても、その制度の持つ意味や他の制度との比較な…

日本衰退の原因

<日本文化の構造問題> 最近は、日本の現状を憂ふ声が高く、戦後の教育に問題があつたといふ点を指摘する識者が多い。占領軍に押し付けられた憲法が悪い、日教組がいけない、戦後の親の家庭教育が酷すぎる等々と他人の悪口ばかり言つてゐても改善は望めまい…

「「適職」は幻想である」

今日の朝日新聞の求人欄に内田樹氏の「「適職」は幻想である」といふ文章が載つてゐる。一部を引用してみよう。 仕事というのは自分で選ぶものではなく、仕事の方から呼ばれるものだと僕は考えています。「天職」のことを英語では「コーリング」とか「ヴォケ…

最強の組合せ

由井啓之さん @Yoshii9 がご推薦の Mac Book Air、BitPerfect、Devilsound DAC の組合せから出る音を、自作改造のタイムドメイン MINI 卵形で聴く。素晴らしいの一言。高級 CD プレーヤーを上回ると言はれる iPod からの音と比べても、音像の大きさ、低音の…

「幽体離脱は体感できる」

Nature 誌の日本語版ダイジェストの3月号の表紙に「幽体離脱は体感できる」といふ文字が見える。元の記事は、同誌の2011年12月8日号に載つた"Out-of-body experience: Master of illusion"といふ解説記事だ。錯覚を利用して「体外離脱」を可能にするスウェ…

脳のモデルと「一つであること」

2月23日付けの Nature誌に"Brain in a box"といふ記事が出てゐる(p.456-458)。スイス国立ローザンヌ工科大学(EPFL)の Henry Markram といふ学者の、脳の全体をモデル化しようといふ壮大な計画を紹介してゐるのだが、かうした提案は、どのやうな意味を持つの…

治められる者のずる賢さ

アラン(1868-1951)が市民の持つべきずる賢さについて書いてゐる(1928年9月8日のプロポ)。革命により得た市民といふ地位は、決して気楽なものではないのだ。革命によつて高まる愛国主義は、しばしば戦争につながる。それを如何に防ぐかといふのがアランの問…