2021-01-01から1年間の記事一覧

本当の話はどこで聞けるのか

日本はなぜ戦争に敗けたのか 要らない書物を整理しようとして、『文藝春秋』2005年11月号の特集「日本敗れたり あの戦争になぜ負けたのか」を見つけ、捨てる前に読み返してみた。半藤一利、保坂正康、中西輝政、福田和也、加藤陽子、戸髙一成といふ面々の座…

民主主義の衰退

コロナウイルスへの対応や、アフガニスタン撤退での米国の失態を、中国が民主主義の失敗と宣伝してゐる。確かに、どちらも余り褒められたものではない。民主主義がうまく動いてゐないと見えるのは何故だらうか。 東西冷戦の時代にも、民主主義の弱さが指摘さ…

物の世界と人の世界

アラン(1868-1951)の1913年1月10日付のプロポ。 人の性格は互ひに異なる二種類の経験によつて形作られる。物の世界と人の世界といふ二つの世界があるからだ。自分の持物を相手に働く農夫は、多くの物に頼り、人には殆ど頼らない。逆に、長官、副知事、ネクタ…

在るものと在るべきもの

アラン(1868-1951)が1912年12月2日に書いたプロポ。 最後には信仰といふものが分かるだらう。それで神学論争は終はる。この道を照らすのが偉大なカントの著作だ。しかし彼の著書に読者は尻込みする。それは無理もない所だ。仕事や趣味でカントを読む人達は、…

あるがままの自分とは

久しぶりにアラン(1868-1951)のプロポから(1912年11月18日付け)。 昨日、面白い理窟を読んだ。「率直でなければならない。これが最初の義務だ。誰でも自分のあるがままを見せねばならない。そして第一に、自分のあるがままを知らねばならぬ。一人の女に欲情…

東京オリンピック開催の目的

The Economist誌が、日本政府がオリンピック開催に固執する理由についての記事を出した。The impulse behind Japan’s decision to go on with the Olympic gamesといふ題で、2022年に冬季オリンピックを開催する中国には負けたくないといふ気持ちなどの「愛…

井筒俊彦『意識と本質』

使ふ側から見た思想の体系について考へた際に、中心には私がゐて、その私は心と身体から成るとしたのだが、心とはどのやうなものなのか、その正体を知ることは容易ではない。心については、心理学者や哲学者が様々な説を述べてゐる。その一つとして井筒俊彦…

斎藤幸平氏の『人新世の「資本論」』(II-1 経済:生活を支へる)

斎藤幸平氏の『人新世の「資本論」』を読んだ。いろいろな刺激に充ちてゐる本だ。 「人新世」といふのは、Anthropoceneの訳語で、人類が地球環境に大きな影響を与へてゐることを踏まへて、新しい地質時代の名称として提案されてゐる言葉だ*1。かうした言葉が…

ケインズ『孫たちの経済的可能性』(II-1 経済:生活を支へる)

「経済問題は解決する」との予想 ケインズ(1883-1946)が、1930年に『孫たちの経済的可能性』といふ文章を書いてゐる。元々はマドリッドで行はれた講演を文章化したもので、ネットで原文と、山形浩生氏による翻訳*1を見ることができる。 ケインズはこの中で、…

これからの日本に必要な哲学とは(II-2 政治:枠組を築く)

中江兆民は、「わが日本古より今に至るまで哲学なし」と嘆いたが、どのやうな哲学が必要なのかについては、詳しく述べる時間を持てなかつた。これからの日本に必要な哲学とはどのやうなものなのだらうか。 哲学とは 哲学とは、辞典によれば「統一的全体的な…

『歴史とは何か』(II-3 歴史:過去を伝へる)

歴史教育の問題は、近隣諸国との関係もあつて、なかなか難しい。最近では、「自虐史観」に反発して、日本人が自分の国を誇りに思へるやうな歴史を書かうといふ動きもあり、『日本国紀』はよく売れたらしい。他方で、この本には様々な批判も出てゐるやうだ。…