2008-01-01から1年間の記事一覧

進化論と共生

12月8日付け産經新聞のコラム「知の先端」で、大阪大学大学院の四方(よも)哲也教授が紹介されてゐる。「進化論の前提とされてきた適者生存の考えに、独自の「進化実験」で見直しを迫った」人だ。記事の一部を引用する。 生物間の相互作用(相性)が共存…

加藤周一(1919-2008)

昨日、午後、加藤周一さんが亡くなつた。享年89。 加藤さんの本で、最も読まれたのは何だらうか。作品としては『日本文学史序説』を一番に挙げるべきなのだらうが、売れた数では、『羊の歌』と、案外、『読書術』かも知れない。 この二つは、特に学生の頃…

インターネット時代の若者

11月13日付の Economist 誌に、Don Tapscott 氏の"Grown Up Digital: How the Net Generation Is Changing Your World"といふ本の評が載つてゐる。1978年から94年に生まれた12カ国の8000人近い人を対象とした調査をもとに書かれたもので、こ…

身体はどこまで広がるか

Nature 誌6月17日号に、猿の脳に電極をつけて、ロボットの腕を動かさせる実験の論文 "Cortical control of a prosthetic arm for self-feeding" が載つてゐる。ウェブサイトでは、実験の様子のビデオも見ることができるが、ロボットの腕を使つて上手に餌…

臨死体験の研究

英国の Southampton 大学が中心となつて、臨死体験の研究が始まる。心停止中の患者の脳や意識の状態を調べるほか、体外離脱の真偽を確かめるために、天井近くの特別の位置からだけ見える場所に様々な絵を出して、蘇生した患者がそれを見たかどうかを調べるの…

良識(ベルクソンによる)

ベルクソン(1859-1941)が1895年に、ソルボンヌでの学生の表彰式に際して、「良識と古典の学習」"Le Bon Sens et les Études Classiques"といふ題で話をしてゐる(Mélanges, p.359-372)。ベルクソンの考へる良識とはどのやうなものかを示す文をいくつか抜…

「復活」と「魂の存続」

"Annales Bergsoniennes III Bergson et la Science" に載つてゐる Bertrand Saint-Sernin 氏の論文、"L'Interconnexité entre les Êtres selon Les Deux Soureces de la Morale et de la Religion"に付された注(p.303)に、キリスト教の人間観がまとめられ…

川勝平太『日本文明と近代西洋』

川勝平太(1948-)氏の『日本文明と近代西洋』(1991)を読む。良く知られた人であるやうだが、迂闊にして、これまで読んだことがなかつた。 第一部 日本と西欧の併行的「脱亜」 - アジア文明圏からの自立 がおもしろい。木綿の西方伝播とイギリス産業革命、木…

さぼる脳

計見一雄さんの『脳と人間』を、ときどき取り出しては、少しづつ読み進めてゐる。現実の症例をいくつも見て来た臨床医の言葉だけに、重みがある。 精神病棟には、不思議な若々しさを保った患者が何人かいる。症状はさまざまだが、ようするに過去のままなので…

明日の医療

13日の朝日新聞土曜版 be on Saturday Business の「フロントランナー」欄に、JA長野厚生連 佐久総合病院の医師、色平哲郎(いろひらてつろう48歳)氏が紹介されてゐる。次のやうな人だ。 医療を現場から再生しようと奮闘する医師がいる。長寿と低医療費…

真つ当な仕事-専門家の責任

最近、建築物の耐震強度偽装、食品の品質表示偽装といつた話が目につく。かうした酷い仕事をして世間に迷惑をかけた経営者等は、「競争が厳しい中で、会社を潰さないためには仕方がなかつた」といふ類の言ひ訳をする。どうも、彼等には、世の中で仕事をする…

「新・東京裁判」

十月号の文藝春秋に、「新・東京裁判、国家を破滅に導いたのは誰だ」といふ座談会が載つてゐる。この雑誌は、最近、太平洋戦争に関する座談会を何回か掲載してゐるが、今回のは、それらの集大成といふ観がある。多様な視点からの検討が行はれてをり、内容も…

人工知能は可能か

8月14日号の Nature 誌に、Andrew Hodgesによる、Ernest Nagel & James R. Newman "Gödel's Proof"の書評が載つてゐる。In Retrospect と題された、新刊ではなく、以前に刊行された名著を紹介する欄だ。この本は、ゲーデルの不完全性定理について解説した…

文明と軍隊

本日(8月26日)付け朝日新聞の朝刊の、「東南アジア紀行 半世紀」に、「日本の立場で世界見るべきだ」といふ見出しで、梅棹忠夫氏の話が載つてゐた。国立民俗学博物館顧問、88歳である。 東南アジアは東欧と似て、大国に囲まれ歴史的地理的に制約が多…

ラットの脳細胞で動くロボット

8月15日付け読売新聞の29面に、ラットの脳細胞を使つてロボットを動かす実験についての記事が載つてゐる。英国レディング大学における研究で、通常のロボットの制御に使はれてゐるICの代はりに、ラットの脳細胞を培養したものを使ふといふ試みである…

Kauffman と Bergson

前回は、「当然のことながら、Kauffman は、ベルクソンではないことが分かる。」と書いたが、それは、一つには、カウフマンが、自然の創造性そのものを「神」と呼ぶことが、ベルクソンの立場とは異なると感じたからであつた。ベルクソンの神は、信仰の対象と…

立法者としての国民

大分県での教員採用試験の不正が世の中を騒がせてゐる。かうした事件が示してゐるのは、日本における民主主義の未熟だ。 権力を持つ者に擦り寄つて特別な扱ひを受けようとすること、「うまくやる」ことが、日本では、大人の智恵の代名詞のやうに思はれてゐる…

S. Kauffman "Reinventing the Sacred"

Stuart Kauffman の "Reinventing the Sacred" を読む。Science 誌の紹介記事で興味を引かれ、米国の amazon.com で中身を見て(何故か、日本の amazon.com には、中身が載つてゐない)、驚いた。まるでベルクソンぢやないか! 例へば、かういふ一節がある。…

ベルクソンの手紙

ベルクソンの書簡集を、少しづつ読み進めてゐる。「忙しいので、夕食の招待には応じられない」といつた日常的な手紙も多いのだが、思つてゐた以上に楽しめる。ベルクソンが極めて筆まめな人であつたことが分かる。 興味を引かれる点の一つは、翻訳に関するこ…

大野 晋(1919-2008)

大野晋さんが、今朝、亡くなつた。八十八歳といふ年齢ではあるが、新しい仕事にも取り組んでをられただけに、残念である。数々の業績を残された方だが、先づ、二十年近くの歳月をかけて作られた『岩波古語辞典』が挙げられよう。その「序にかえて」には、次…

小泉信三の想ひ

文藝春秋八月号は、「皇太子、雅子妃への手紙-批判の嵐の中で」といふ特集で、何人かの「手紙」を載せてゐるが、保坂正康氏のものは「小泉信三の覚悟と想い」といふ題で、小泉信三が今上陛下の皇太子時代に差し上げた講義の覚書を紹介してゐる。以下は、そ…

fMRI の特徴と制約

Nature 誌6月12日号に、functional magnetic resonance imaging (fMRI) の特徴と制約をまとめた解説記事が掲載されてゐる。fMRI は、脳の活動を非侵襲で観察することができる装置で、いくつかの方式があるが、現在主流となつてゐるのは、小川誠二氏により…

BMIの倫理問題

本日付の朝日新聞朝刊、科学欄のコラム「探求人」に、慶應義塾大学理工学部で Brain Machine Interface (BMI) を研究してゐる専任講師の牛場潤一さんが紹介されてゐる。BMIは、運動神経を傷つけられた障害者の脳波を取り出し、その信号を使つてロボットの腕…

ベルクソンの自由観

ベルクソンの"Essai sur les données immédiates de la conscience" (邦訳『時間と自由』)を読み返してみると、自由に関する重要な論点が目白押しだ。やはり大した学者である。例へば、以下の部分(Œuvres p. 109)。 Que si, au contraire, il prend ces état…

多田富雄さんによる日本の四つの特徴

朝日新聞のコラム「聞く」に、多田富雄さんの話が連載されてゐる。多田さんは、世界的な免疫学者であり、多彩な趣味でも知られる。2001年に脳梗塞で倒れた後は、ご自身の経験を踏まへて、福祉行政に対する強烈なメッセージを発し続けてをられる。 けふの…

ADHDと漂泊の詩人

Economist 誌の科学技術欄に、ADHDと遺伝の話が出てゐる。Attention Deficit / Hyperactivity Disorder 注意欠陥・多動性障害は、落ち着きが無く、じつと座つて人の話を聞くことが苦手であるといつた特徴を示す障害で、学校では「困つた子供」になる場合…

Edward N. Lorenz (1917-2008)

Science 誌に、カオス理論の先駆者として知られる Lorenz の追悼記事が出てゐる。(23 May 2008: Vol. 320. no. 5879, p. 1025) 記事には、かうある。 デカルト流の決定論的な世界観には、20世紀の初頭、最初のひびが入つた。アンリ・ポアンカレが三体問題…

カシミール効果

5月22日号の Economist 誌にカシミール効果の話が出てゐる。記事は、かう書き始められてゐる。 無から何かが生まれ得るか。哲学者達は何千年もこの問題を議論してきたが、物理学が答をもたらした。それは、然り、といふ答である。 カシミール効果とは、量子…

自由意志の証明

ジェイムズ(William James, 1842-1910) の"The Will To Believe and other essays in popular philosophy" は、自由意志に関する論文や講演を集めたものだが、その中の一つ、"The Dilemma of Determinism" の最初の部分に次の一節がある。(Dover edition, p.…

地雷除去機

朝日新聞の土曜版に、地雷除去機を開発した雨宮清さん(61歳)の話が載つてゐる。テレビのコマーシャルで見た人も多いだらう。日立のやうな大きな会社で、よくあんな変はつた製品が開発できたものだと思つてゐたが、関連会社である山梨日立建機が開発した…