民主主義についてのチャーチルの言葉

「民主主義は最悪の政治形態である。ただし、過去の他のすべての政治形態を除いては。」といふのは、ウィンストン・チャーチル(1874-1965)の言葉としてよく知られてゐる。しかし、調べて見ると、これは元々チャーチル自身の言葉ではないやうだ。 この言葉が…

議会制民主主義を守る

安倍元首相の暗殺事件を受けて、NHKが「安倍元首相 銃撃事件の衝撃」といふ特別番組を流してゐた。その中で、御厨貴氏が次のやうな発言をしてゐたのが印象的だつた。 先づ、現在の状況をどう見るか。 テロを呼び込むのではないか、といふことまで考へなけれ…

顔を躾ける

アラン(1868-1951)の1922年3月4日付けのプロポ。 誰もの顔に飛んでくる類(たぐひ)の表情がある。話すのを止められないお喋りのやうに、露(あらは)にするのを止めることができない目、鼻、口がある。新聞を買ふ時にも、偉さうな人、脅すやうな人、決然と…

全てを知ることはできるか

人は何でも知りたいと思ふ。自分が生きてゐる「今、ここ」を超えて、その外側の世界を知らうとする。答へが得られるか否かに関はらず、自分が生まれ落ちたのはどのやうな世界なのかを考へずにはゐられない。世界の果てはどうなつてゐるのか、死んだらどうな…

宇宙「神々を作るための機械」

ベルクソン(1859-1941)の最後の著作『道徳と宗教のニ源泉』は、次のやうな言葉で締め括られてゐる。 Mais, qu'on opte pour les grands moyens ou pour les petits, une décision s'impose. L'humanité gémit, à demi écrasée sous le poids des progrès qu'…

人類の進歩

1921年7月4日のアラン(1868-1951)のプロポ。 つづら折りに上つてゆく道。進歩の美しい絵姿で、ルナンが示したのをロマン・ロランが受け継いだ。しかし私には良いものだとは思はれない。知性が、考へ込み過ぎて、多くの事柄で、待つことを旨とした時代のもの…

本当の話はどこで聞けるのか

日本はなぜ戦争に敗けたのか 要らない書物を整理しようとして、『文藝春秋』2005年11月号の特集「日本敗れたり あの戦争になぜ負けたのか」を見つけ、捨てる前に読み返してみた。半藤一利、保坂正康、中西輝政、福田和也、加藤陽子、戸髙一成といふ面々の座…

民主主義の衰退

コロナウイルスへの対応や、アフガニスタン撤退での米国の失態を、中国が民主主義の失敗と宣伝してゐる。確かに、どちらも余り褒められたものではない。民主主義がうまく動いてゐないと見えるのは何故だらうか。 東西冷戦の時代にも、民主主義の弱さが指摘さ…

物の世界と人の世界

アラン(1868-1951)の1913年1月10日付のプロポ。 人の性格は互ひに異なる二種類の経験によつて形作られる。物の世界と人の世界といふ二つの世界があるからだ。自分の持物を相手に働く農夫は、多くの物に頼り、人には殆ど頼らない。逆に、長官、副知事、ネクタ…

在るものと在るべきもの

アラン(1868-1951)が1912年12月2日に書いたプロポ。 最後には信仰といふものが分かるだらう。それで神学論争は終はる。この道を照らすのが偉大なカントの著作だ。しかし彼の著書に読者は尻込みする。それは無理もない所だ。仕事や趣味でカントを読む人達は、…

あるがままの自分とは

久しぶりにアラン(1868-1951)のプロポから(1912年11月18日付け)。 昨日、面白い理窟を読んだ。「率直でなければならない。これが最初の義務だ。誰でも自分のあるがままを見せねばならない。そして第一に、自分のあるがままを知らねばならぬ。一人の女に欲情…

東京オリンピック開催の目的

The Economist誌が、日本政府がオリンピック開催に固執する理由についての記事を出した。The impulse behind Japan’s decision to go on with the Olympic gamesといふ題で、2022年に冬季オリンピックを開催する中国には負けたくないといふ気持ちなどの「愛…

井筒俊彦『意識と本質』

使ふ側から見た思想の体系について考へた際に、中心には私がゐて、その私は心と身体から成るとしたのだが、心とはどのやうなものなのか、その正体を知ることは容易ではない。心については、心理学者や哲学者が様々な説を述べてゐる。その一つとして井筒俊彦…

斎藤幸平氏の『人新世の「資本論」』(II-1 経済:生活を支へる)

斎藤幸平氏の『人新世の「資本論」』を読んだ。いろいろな刺激に充ちてゐる本だ。 「人新世」といふのは、Anthropoceneの訳語で、人類が地球環境に大きな影響を与へてゐることを踏まへて、新しい地質時代の名称として提案されてゐる言葉だ*1。かうした言葉が…

ケインズ『孫たちの経済的可能性』(II-1 経済:生活を支へる)

「経済問題は解決する」との予想 ケインズ(1883-1946)が、1930年に『孫たちの経済的可能性』といふ文章を書いてゐる。元々はマドリッドで行はれた講演を文章化したもので、ネットで原文と、山形浩生氏による翻訳*1を見ることができる。 ケインズはこの中で、…

これからの日本に必要な哲学とは(II-2 政治:枠組を築く)

中江兆民は、「わが日本古より今に至るまで哲学なし」と嘆いたが、どのやうな哲学が必要なのかについては、詳しく述べる時間を持てなかつた。これからの日本に必要な哲学とはどのやうなものなのだらうか。 哲学とは 哲学とは、辞典によれば「統一的全体的な…

『歴史とは何か』(II-3 歴史:過去を伝へる)

歴史教育の問題は、近隣諸国との関係もあつて、なかなか難しい。最近では、「自虐史観」に反発して、日本人が自分の国を誇りに思へるやうな歴史を書かうといふ動きもあり、『日本国紀』はよく売れたらしい。他方で、この本には様々な批判も出てゐるやうだ。…

與那覇潤『中国化する日本』(II-3 歴史:過去を伝へる)

與那覇潤氏の『中国化する日本』を読んだ。2011年に出され、評判になつた本で、10年近く遅れての読書となり、今更の感はあるが、非常に面白かつたので、感想を書いて置く。宋の時代に封建制から郡県制に移行し、皇帝独裁政治と経済社会の自由化を実現した中…

アスクレピオスに雄鶏を

11月30日のFrance Cultureの番組「哲学への道」Chemin de la Philosophieでプラトン(427-347BC)の『パイドン』が取り上げられてゐた。「古代の哲学者と閉ぢこもる」といふテーマの第1回で、新型コロナ対策としての外出制限を背景とした企画だと思はれる。こ…

正しい知識を得るための仕組み(II-2 枠組の構築:政治)

某国大統領が多用することで「フェイクニューズ」といふ言葉が流行つたが、フェイクではない本物のニュース、正しい知識*1を得るためには何が必要だらうか。 知識は空から降つては来ない 先づ「人の世の中に役立つもので、何もせずに手に入るものなど無い」…

デカルトとパスカル(I-1 前向きな心)

デカルトとパスカルの一致点 思想の体系化の最初に「前向きな心」といふ区分けを設けたが、全ての中心に私がゐて、その私とは私の心だ、といふものの見方は正しいものなのか。科学者の一部には、心は脳の働きに過ぎず、意識は幻に過ぎない、といつた主張も見…

体系化とは

どこに足場を求めるか 「使ふ側から見た思想の体系」を考へると書いたが、体系といふからには、主な問題を漏れなく取り上げるとともに、全体として、ある程度の整合性がなければならない。そして何より、体系の要素となる思想をどこから持つて来るのか。人々…

使ふ側から見た思想の体系

思想*1の体系について語られるとき、多くの場合に、学者の立場から見た体系が取り上げられる。言はば供給側の論理だ。他方で、幸せに生きるために思想を使ふ側、需要側からの体系化といふものもあり得るだらう。ここでは、そんな体系、あるいは整理の仕方の…

日本の思想の基盤

思想の共通基盤を持たない日本 丸山眞男(1914-1996)が『日本の思想』に、かう書いてゐる。 一言でいうと実もふたもないことになってしまうが、つまりこれはあらゆる時代の観念や思想に否応なく相互連関性を与え、すべての思想的立場がそれとの関係で——否定を…

『旧約聖書』の読み方(承前)

第3回は「雅歌は最初のエロティックな詩か」といふ題で、Olivier Abel氏が話をした。「雅歌」は旧約聖書の一章で、英訳聖書では Song of Solomon といふ題になつてゐる。文字通り読めば男女の愛の歌であり、「ねがはしきは彼その口の接吻をもて我にくちつけ…

『旧約聖書』の読み方

France Cultureのラジオ番組Chemin de la philosophie(哲学への道)で、先週は『旧約聖書』に関する4つのテーマを放送してゐた。『旧約聖書』についての知識を殆ど持たない身には興味深い話ばかりだつたので、メモして置く。 第1回は「アブラハムと犠牲、…

山崎正和(1934-2020)

山崎正和氏が亡くなつた。 鼎談書評 山崎氏を知つたのは、1980年代前半に文藝春秋に連載されてゐた「鼎談書評」といふ記事だつた。丸谷才一(1925-2012)、木村尚三郎(1930-2006)、山崎正和の三人が、それぞれの推薦図書を持ち寄つて、意見を交はすといふ趣向…

丸山眞男『福沢諭吉の哲学』

丸山眞男*1(1914-1996)は福沢諭吉(1835-1901)の哲学に関して、「福沢に於ける「実学」の転回」、「福沢諭吉の哲学」といふ二つの論文を書いてゐる。岩波文庫に収められたこれらの文章を読みながら、思ひついたことを書き留めておく。 「福沢に於ける「実学」…

科学者と哲学者

Jimena Canalesといふ人の書いた”The Physicist & the Philosopher: Einstein, Bergson, and the Debate That Changed Our Understanding of Time”といふ本を読んだ。1920年代にアインシュタイン(1879-1955)とベルクソン(1859-1941)との間に起きた時間をめぐ…

7月27日のゲンロンカフェ

ゲンロンカフェは株式会社ゲンロンが運営してゐるイベントスペースで、様々な座談会などが企画されてゐる。7月27日に行はれた茂木健一郎氏と東浩紀氏の「日本のコロナと脳」と題された回を録画で視聴したので、感想を書いて置く。なほ、以下の文章は視聴した…