2011-01-01から1年間の記事一覧

『物質と記憶』に関するベルクソンの注釈 其の二

(前回からのつづき) (中略)(ベルクソンは)光の波動に起因する印象がどれほど圧縮されるかを浮き彫りにする。最も振動の少ない赤でも、1秒間に生じる波動を個別に知覚するためには2万5千年を要することになるからである。もし圧縮度が次第に高くなれ…

『物質と記憶』に関するベルクソンの注釈 其の一

4年前から、Press Universitaire de France 社が、ベルクソンの著作を注釈つきで出し始めた。『物質と記憶』には、参考資料として、ベルクソン自身がこの著作について述べた注釈が付されてゐる。これは、Lachalas といふ人が、Annales de philosophie chrét…

Steve Jobs (1955-2011)

アップル社の創業者スティーブ・ジョブズが亡くなつた。享年56。ホワイトハウスのツイッターにこんな言葉が載つてゐた。POTUS: とあるのでオバマ大統領自身の言葉だらうか。 There may be no greater tribute to Steve's success than the fact that much …

市民の抵抗

アラン(1868-1951)が市民の抵抗について書いてゐる(1927年4月のプロポ)。これだからフランス人はうるさいのだ、と納得するとともに、民主主義のあり方やそれを維持するための手間について考へさせられる。 「法則(法律)とは、諸物の性質から派生する必然…

スピーカーの周波数特性

スピーカーの周波数特性については、ツイッターなどでも議論が繰り返されてゐるので、一度、自分なりに整理して見た。周波数特性は、スピーカーの性能を判断する際に有効なのか否かが問ひである。 =本論の目的= 最初に、タイムドメイン(以下、TDと略す。…

倍音を再生すれば基音も聞こえる

John Powell 氏の"How Music Works"といふ本を少しづつ読んでゐる。副題は、"The Science and Psychology of Beautiful Sounds, from Beethoven to the Beatles and Beyond"。その中に、倍音があれば基音がなくても、基音が聞こえるといふ話が出てゐる(P.79-…

立派な総理大臣を選ぶために私達にできること

日本の政治の現状に満足してゐる人は殆どゐないだらう。しかし、その現状を変へるために何か具体的な行動を起こした人も、余り多くはあるまい。 この世の中に、放つて置いて自然に良くなるものはない。エントロピー増大の法則ではないが、日々の手入れを怠れ…

CDの功罪

音楽ソフトのネットによる直接配信が進んでをり、CDの時代は終はらうとしてゐる。高音質のソフトが簡単に手に入るので、Timedomain スピーカー+アンプの良さが一般の人達にも広く知られるやうになるだらう。 1980年代に登場したCDは、LPに比べて扱ひ…

エリートの衰亡(経営者の場合)

日本のエリートの質が落ちてゐるのは、公務員に限らない。会社の経営者達も、かつての社会的な責任感を失つてゐるやうに思はれる。 少し前まで、日本の経営者の基本的な責任は、雇用を確保することであつた。景気が悪くても、コスト削減等あれこれと工夫して…

疑ふことを知らぬ体制派と従ふことを知らぬ反対派

東電福島原発の事故に関する議論を見てゐて、推進派は疑ふことを知らず、反対派は従ふことを知らない、といふ印象を持つた。そして、アラン(1868-1951)が、権力者には従はなければならないが、心まで許す必要は無い、といふ趣旨の文章を書いてゐるのを思ひ出…

量子力学の巨視的な効果

6月号の"Scientific American"誌に、Vlatko Vedral 氏の"Living in a Quantum World"といふ記事が出てゐる(p.20-25)。普通、量子力学は分子や原子レベルの微視的な現象にだけ有効なもので、巨視的な世界では、相対性理論も含めて、古典的な物理学が適用され…

エリートの衰亡(公務員の場合)

これまでの日本が「お上」任せで何とかやつて来られたのは、戦後の混乱が落ち着いた後には、政府の力が問はれるやうな大事件が比較的少なかつたことと、かつての日本のエリートがそれなりに立派だつたことに依る。何故、日本のエリートは堕落したのか。国家…

大震災が露はにした日本の弱点

3月11日の大震災は、日本の抱へてゐた弱さを露はにした。原子力発電所の安全対策は、その悲しい例の一つだが、言論の貧しさも、今後の大きな課題だと感じた。 今回の大震災への政府の対応には、批判が多い。確かに拙さが目立つ。しかし、揚げ足取りしかしな…

時間や意識が「ある」とは

入不二基義氏の『時間は実在するか』には、実在(reality)といふ概念の意味・側面として、以下の5つが挙げられてゐる。(286-7頁) (1) 本物性:みかけ(仮象)ではない「ほんとうの姿」であるもの (2) 独立性:心の働きに依存しない、それから独立した…

お伽話の意味

アラン(1868-1951)が1921年9月10日付けのプロポで、お伽話について書いてゐる。 お伽話が正しいのは、外部の秩序は人間の秩序に比べると無視できるものだと考へてゐるといふ点だ。距離は大したものではない。人間は夢の中でのやうに、魔法の絨緞に乗つて、ま…

決定論と自由意思

科学的な決定論と自由意志との関係の問題について。 世の中に物理法則があることは、疑ひない。ニュートンの法則、相対性理論、波動方程式等々。これらの法則は、いづれも初期値が与へられれば、t 時間後の状態を示すことを可能にする(その他の条件が不変な…

加藤嘉一の「脱中国論」

日経ビジネスOnlineは、登録すれば無料で見られるサイトだが、良い記事を掲載してゐる。その一つが加藤嘉一の「脱中国論」だ。1月12日の記事は、「“優越感”から脱却しよう」と題されてゐる。その末尾の部分に、かうある。 筆者は2008年、日本の国会議事堂…

精神医学研究の新しい手法

昨年3月の"Science"誌に、精神医学研究の新しい手段についての記事が出てゐた("The future of psychiatric research: genomes and neural circuits" 26 march 2010 Vol 327 pp 1580-1581)。ゲノム解析と神経回路の分析の二つがそれだ。 ゲノム解析: 解析が…

Sensation と Action

Nicholas Humphrey の"Seeing Red, A Study in Consciousness"の面白い点は、前回書いたもの以外にもある。例へば、生物が外部からの刺激やそれに対する自分の反応がどうなつてゐるかを知るには、身体を動かすための命令信号をモニターするのが簡便であり、…

自惚れと見栄

自分が成功者だとは思はないが、年の初めの自戒として、アラン(1868-1951)のプロポから(1921年9月9日)。 今は引退した、ある有名なバイオリン奏者で、多くの優れた点の中でも常に正確な音を出すといふ特質を持つてゐた人が、バカンスを過ごしたイタリアから…