fMRI の特徴と制約

Nature 誌6月12日号に、functional magnetic resonance imaging (fMRI) の特徴と制約をまとめた解説記事が掲載されてゐる。fMRI は、脳の活動を非侵襲で観察することができる装置で、いくつかの方式があるが、現在主流となつてゐるのは、小川誠二氏により開発された blood-oxygen-level-dependent (BOLD) contrast mechanism を用ゐて細胞における酸素消費を測定し、細胞の活動水準を推定する方法である。

 

現在、脳の活動を映像化、可視化するために最も有力とされる手段だが、いくつかの制約もある。先づ、多数の脳細胞の平均的な活動を観察してゐること。今、一般的に使はれてゐる技術では、表面積 9-16平方mm、厚さ5-7平方mm程度の大きさの単位で、活動の様子を観察することが可能である。かなり小さな領域と思はれるが、この中には、550万個のニューロン、22-55億個のシナプス、22kmの樹状突起、220kmの軸索が存在するといふから、驚く。しかし、現在の技術を延長すれば、分析の単位は、0.5mmの立方体程度まで細かくすることが可能といふことなので、近い将来に、現在よりも3桁くらい細かな領域の観察が可能になると期待される。時間分解能は、2秒程度である。脳の働きを理解するには、個々の脳細胞まで降りる必要は必ずしも無く、この程度のデータでも、多くの知見が得られるといふ。

 

もう一つの、より根本的な制約は、血流によつて測られる神経活動の水準と、神経活動の出力との間の関係は、単純ではないことである。神経活動の出力は、刺激と抑制の相対的な比較の結果により決められる。刺激と抑制が同時に活性化すると、血流は増加し、fMRI の信号も変化するが、神経活動の出力はゼロのまま、といふこともあり得る。

 

筆者は、かうした限界はあるものの、fMRI は脳の機能を分析するための最良の手段であり、他の測定法との組み合わせや、適切な実験計画と結果の解釈により、さらなる成果が期待されると述べてゐる。脳の映像化技術は、まさに脳の活動が手に取るやうに分かる気にさせるので、マスコミなどでは、誇張した記事が載ることが多いが、さすがに Nature で、バランスのとれた、門外漢にも非常に有益な論文である。

 

かうした新しい技術により、脳の構造や活動について、より詳しい知識が得られる。心と身体の関係について考へるためにも、新たな材料が出てくるだらう。哲学者は、先人の本の解説ばかりしてゐないで、このやうな科学の新しい動きに、もつと関心を持つべきだ。