使ふ側から見た思想の体系

思想*1の体系について語られるとき、多くの場合に、学者の立場から見た体系が取り上げられる。言はば供給側の論理だ。他方で、幸せに生きるために思想を使ふ側、需要側からの体系化といふものもあり得るだらう。ここでは、そんな体系、あるいは整理の仕方の一例を考へてみたい。それは、自分を中心として、次第に広がる輪のやうな形をしてゐる。

I 心と身体

II 個人と社会

III 人間と地球

IV 人間と宇宙

自分を中心に広がる世界

輪の中心には私がゐる。自分が世界の中心にゐると考へるのは、子供じみた見方であると言へるだらうが、一人ひとりの立場から見れば、これが私達の姿だ。世の中は、私が見聞きし、感じるものから出来てゐる。近くのものは大きく見え、遠くのものは小さく見える。その先は見えない。今の私に見えるものの外にも世界が広がつてゐることは、経験からも分かる。自分が世界の中心であるといふことは、自分の知らない世界は存在してゐないのと同じだ、といふ意味ではない。しかし、その世界を自分の目で見ようとすれば、そこまで動いていかなければならない。そこでも、世界は私が中心にゐるやうに見えてゐる。私が見る世界は、いつもそんな姿をしてゐる。

心と身体

人は心と身体で出来てゐる。心は脳の働きに過ぎない、といふ近代的な考へ方もあるが、心が身体に宿つてゐるといふ昔ながらの見方も捨てがたい。自分の身体は、自分であるとともに、自分で自分に触れることができるやうに、心にとつては一つの対象でもある。そこで、心から話を始めて、幸せに生きるために知つておくべきことを整理してみると、次のやうな区分ができるだらう。

I-1 前向きな心

I-2 健やかな身体

I-3 心と身体の間で

幸せには心と身体の健康*2が大切だ。心と身体とのつながりは、薬物依存や心身症などの現代の問題を考へる際に欠かせない、重要な事柄だ。

個人と社会

世界の中心に自分がゐる、と書いたが、人は一人では生きられない。必ず社会の中に生まれ出るのだ。親がゐないと生まれない、といふだけではなく、新生児は誰かの助けが無ければすぐに死んでしまふからだ。個人が集まつて社会を作つたのではなく、社会から個人が出て来たのだ。そこで、幸せに生きるには自分の生まれた社会の仕組みを知ることが欠かせない。社会に関する思想は、次の三つの分野に整理できるだらう。

II-1 経済:生活を支へる

II-2 政治:枠組を築く

II-3 歴史:過去を伝へる

1)衣食住といふ生活に欠かせない物やサービスがどのやうにして作られ、配られてゐるかを知ること、2)社会として纏まるために、様々な決りがどのやうにして作られ、守られてゐるかを知ること、そして、3)この社会がどのやうな経緯でできて来たのかを知ることの三つだ。

人間と地球

今までのところ、生命が確認されたのは、この地球だけだ。人間は、今の技術では、それ以外の場所に短期間留まることはできるとしても、そこで命をつなぐことはできない。地球は人間のただ一つの居場所なのだ。この大切な地球での人間の存続を脅かすのは、環境変化と戦争だらう。そこで、幸せに生きるには、次の三つの課題について考へる必要が出て来る。

III-1 環境を守る

III-2 争ひを防ぐ

III-3 人類として生きる

環境問題にしても平和の維持にしても、一つの国を超えた対応が求められる。国としてではなく人類としての目標の共有や、それを実現するための手段が必要となる。

人間と宇宙

人間にとつての究極の問ひは、「私達はどこから来たか、私達はどこに行くのか」といふものだらう。先づ、科学が何を教へてくれるか。近代の科学が発達するまでは、大地と空とが世界の全てだつた。今や、私達が棲む地球は広大な宇宙の中にあり、その宇宙も137億年前にビッグバンで誕生したと考へられてゐる。宇宙は永遠に続く固定的なものではなく、そこでは星が生まれたり、ブラックホールに飲み込まれたりするやうな激しい変化を続けてゐる場所なのだ。

果てしもないやうな宇宙の姿を知ると、人間がいかにも小さく無意味な存在に思はれることもある。生きて行く意味はどこにあるのか。人間は神や仏に救ひを求めて来た。科学が進んだ今日、宗教についてどう考へるべきかは、避けて通れない問題になつてゐる。

そして、とにもかくにも人間は生き延びて来た。人々はどのやうな信念に支へられて生きて来たのか。

IV-1 宇宙の姿

IV-2 神や仏の救ひ

IV-3 今ここに生きる

体系に基づく思想の整理

使ふ側から見て、思想が役立つのは、世の中を見詰め、自分の問題を考へる際の基軸を与へてくれる、といふ点だらう。上に挙げた体系の一例は、生きて行く過程で私達が持つ疑問を並べたものでもある。これまでに出現した様々な思想が、かうした疑問にどのやうに答へてゐるのかを整理すること、それを少しづつ進めたいと考へてゐる。

*1:「思想」といふ言葉は幅広い意味を持つが、ここでは、物事の基本となる部分についての問ひと答へといふ意味で使つてゐる。例へば、幸せとは何だらう、どうして働くのだらう、などの問ひとその答へだ。日々の生活に役立つノウハウなどの個別具体的な知識は含まれない。

*2:世界保健機関(World Health Organization, WHO)は、健康を次のやうに定義してゐる。

「健康とは、病気でないとか、弱っていないということではなく、肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが満たされた状態にあること」

しかし「すべてが満たされた状態」など、あり得ないだらう。WHOの「健康」は、実際にあり得る状態といふよりも、目指すべきだが達し得ない理想だ。生まれながらに持つてゐる体質や気質は様々でも、過去に事故や病気で身体を損なひ心を病むことがあつたとしても、それぞれに応じて、前向きに生きる姿があるはずだ。