中根千枝『タテ社会の人間関係』を読む。立派な本だ。
何故、日本にタテ社会が生まれたか。タテ社会とは村社会で
あり、要するに日本が人の出入りのない、閉ざされた村で
あつたといふことだらう。
同じ顔ぶれの人達と一生を暮らすことが前提となる。大切
なのは、この人達とうまくやつて行くことだ。人間は一人
では生きて行かれないのだから。あまり理屈を言つても
仕方がない。むしろ相手の気持を知ることが大切だ。人間は
機械ではないのだから。
しかし、村も生きて行かなくてはならず、そのためには
自然や物を相手にする必要がある。自然や物は、言葉では
動かない。誠意を見せても気持だけではダメだ。逆に、
理屈に適つた働きをすれば、黙つてゐても結果は出せる。
農民や職人は寡黙だ。他人から何か言はれれば「ごもつとも」
とだけ答へ、自分の仕事について聞かれれば「ご覧のとほり」
と言へば足りる。村社会の正気を保つてきたのは、この人達
かもしれない。
しかし、人間の社会は、これだけでは治まらない。人と人との
関係を整理するには、約束や取り決めが必要だ。これは言葉で
作られる。正しい言葉がないと正しい社会は生み出せない。
職人に欠けてゐるのは、これだ。