意識と記憶、知覚の統合

人は、意識に上らなかつたものを覚えてゐることがあるだらうか。

意識するとは、覚えるための条件であり、思ひだすことの条件で
ある。むしろ、思ひだすことそのものではないか。

脳の中では我々が直接には知ることがない作用が絶え間なく生じて
ゐる。色を感じる細胞からの信号、形を感じる細胞、動きを感じる
細胞からの信号がどうやつて統合されるか、といふのが生理学者
疑問である。

アランが説くやうに、我々が見る物、聞く音は、我々の行動の指針
であり、むしろ具体的な動きの予感や素描であるとすれば、統合は
我々の体全体、特に運動の器官の働きといふ形で行はれてゐること
になる。知覚の側の器官ばかりを探しても、玉ねぎの皮むきに終はる。