多田富雄さんによる日本の四つの特徴

朝日新聞のコラム「聞く」に、多田富雄さんの話が連載されてゐる。多田さんは、世界的な免疫学者であり、多彩な趣味でも知られる。2001年に脳梗塞で倒れた後は、ご自身の経験を踏まへて、福祉行政に対する強烈なメッセージを発し続けてをられる。

 

けふのコラムは、「美しい日本 四つの特徴」といふ題で、自然の中に無数の神を見つけ敬ふ「アミニズム」、能や歌舞伎、茶道や華道に見られる「象徴力」、滅びゆくものに対する共感、人の世の無常、弱者への慈悲などの「あはれ」、そして、それらを技術的に包み込む「匠の技」の四つを、日本の特徴として挙げられ、
この四つの特徴が、日本の美しさを世界でも独自なものにしてきたし、日本人の行動の規範にもなってきたと思います。
と書いてをられる。

 

日本の特徴とは何かを反省する事は、大切だ。世界の中で生き抜くには、自分の国の強さ、弱さをしつかりと認識することが第一歩だからだ。また、かうした日本の特徴は、放つておいても続くものではなく、それを維持し、さらに伸ばすためには、意識的な努力が欠かせないからだ。

 

仏教の教へも、日本人の心に大きな影響を与へたものの一つだらう。小林秀雄は、『私の人生観』で、かう述べてゐる。

さういふ釋迦の樣な天才の宗教的體驗は、格別なものとしても、佛敎の心觀といふものの性質には、キリスト敎の祈りに比べると餘程審美的なものがあつた樣に思はれます。やはり、美しい自然の中に生まれた宗敎と、砂漠に生まれた宗敎との相違からくるのでありませう。苦行を否定した釋迦は、牛乳を飲み、美しい林の中で修業したが、飢ゑたキリストは、無花果(いちじく)の樹に、今より後、実を結ばざれ、と言つてゐる。キリストは、泥棒と一緒に磔になつたが、お釋迦樣が死ぬ時には、象も泣いた蛇も泣いたと傳説は語ります。餘程の違ひです。それは兎も角、佛敎は、キリスト敎の樣な異敎の美との爭ひを知らぬ。それといふのも、釋迦の内證がどういふものであつたにせよ、佛敎者の觀法といふ根本的な體驗が、審美的性質を持つてゐたからでありませう。觀法はそのまゝ素直に畫家の畫法に通じ、詩人の詩法に通じた。西行の和歌における、宗祇の連歌における、雪舟の繪における、利休の茶における、其貫道する物は一なり、と芭蕉は言つてゐるが、彼の言ふ風雅とは、空觀だと考へてもよろしいでせう。
小林秀雄全集第九巻146頁)