世界を変へる携帯電話

Economist 誌が、発展途上国における携帯電話の利用拡大についての特集を組んでゐる(Sept.26-Oct.2,2009)。携帯電話の加入者数は、2008年には40億人に達してゐるが、そのうち30億人は途上国だといふ。アフリカでも、2009年3月までの1年間に、1億件近い新規加入があり、前年に比べて32%の増加らしい。アフガニスタンのやうな内戦で大変な国でも、10人に1人が加入してゐる計算だといふから驚く。

かうした急速な発展の背景には、機器の価格低下もあるが、前払ひ方式の導入で、料金徴収や信用の問題を回避できた、といふ要因があるやうだ。バングラデシュでは、マイクロ金融との組み合はせで、村の女性に携帯電話を買はせ、彼女は、村人に通話ごとの課金で電話を貸す、といふ仕組みが急速に広まつた。通信市場の自由化も、携帯の普及に拍車をかけた。

興味深いのは、携帯電話が、途上国の経済発展に大きな役割を果たしてゐる、といふ事実だ。店を持つ金のない床屋が、電話で客を取る出張サービスを始めた、等の個別の事例にとどまらず、南インドの漁師が、海上にゐるうちに市場の情報を得ることで、有利な市場で売ることができ、売れない魚を捨てるといふ無駄も減つたので、魚の消費者価格は4%低下し、漁師の利益は8%増えた、といつた調査結果も出てゐる。

この過程で、低価格の機器を提供する中国企業市場占有率が急速に高まつてゐる。remote radio-head と呼ばれる基地局の省エネ技術や、ソフトウェアで機能を変へられる基地局など、技術革新の面でも、中国企業の活躍が目立つといふ。

携帯電話は、農業の技術指導、健康相談、送金や貯蓄など、あらゆる分野で利用されてをり、途上国における交通、通信、金融などの社会インフラの立ち後れを補つてゐる。

かうした話を読むと、同誌の「携帯電話は通信の歴史で、人々の生活を最も急速に、最も大きく変へた技術だ」といふ評価も、成る程、と思はれる。世界は、まさに、一つにならうとしてゐるのだ。