聴き疲れしないとは

Timedomain スピーカの特徴の一つは、聴き疲れしないといふことだらう。何時間聴いても嫌にならないので、ついつい夜更かしして仕舞ふ。聴き疲れについて学問的な研究があるのか、不勉強で知らないが、勝手な思ひ付きを書いてみよう。

 

人間が音を聞くといふ働きには、意識的な部分と無意識的な部分がある。(全ての知覚がさうだと言つても良からう。)意識されてゐる部分は、人間の身体が音に反応して示す様々な動きの、極一部に過ぎない。これは、視覚で「盲視」(blindsight)といふ現象があることからも分る。音の場合でも、ガムランの癒し効果は、人間には「聞こえない」高い周波数によるものだとされる。つまり、聞こえてゐるといふ意識がなくても、自分の身体が音に反応してゐる場合は多い。

 

この無意識的な聴覚は、普通に考へられてゐる以上に、大きな能力を持つ。音源の方向を推定するといふ働きもその一つだ。そのためには、音の大小だけではなく、左右の耳に届く時刻の差が使はれてゐる。京都大学の研究では、人間は10μ秒の時間差を識別できるさうだ。かうした情報を処理して、脳は音源の方向を計算する。

 

意識的に聞こえる音が嫌な音である場合は、聴き疲れ以前の問題だが、音楽としては良いのに聴いてゐると疲れるといふ場合には、この無意識的な働きの部分に理由があるだらう。一言で言へば、脳が余分な仕事をさせられる場合には疲れを感じる、といふのが私の仮説である。

 

マルチウェイのスピーカの場合には、フィルタによる位相のずれやスピーカユニットごとの特性の違ひにより、音の到着時間の差がいつも変化してゐる。脳は、これらの信号を整理して、音の来る方向を決めようとする。それがうまくできないのが、定位が悪いといふことだらう。つまり、定位が悪いとは、脳が音源の方向を決められずに迷つてゐる状態である。これが聴き疲れの一因ではないだらうか。

 

かうした問題についての研究は、余り行はれてゐないやうだ。脳の研究も進んでゐるし、測定機器も進歩してゐるのだから、どこかできちんとした研究をすると良いと思ふのだが。