2008-01-01から1年間の記事一覧

Irena Sendler (1910-2008)

Economist 誌の Obituary は、いつも興味を持つて読んでゐる。今回は、Irena Sendler(旧姓 Krzyzanowska)だつた。 ポーランド女性で、ナチス占領下のワルシャワのゲットーからユダヤ人の子供約2500人を脱出させた。ドイツ人への感染をおそれたナチスか…

頭の良くなる薬

エコノミスト誌に、頭の良くなる薬の話が載つてゐる。 Smart drugs これらの薬は、精神を刺激し、中毒性がある。利用者に拠れば、集中力が増し、疲れが減るといふ。しかし、高揚状態は長続きせず、中毒患者は、量を増やしながら薬を飲み続けなければならない…

自由な意思

Nature Reviews Neuroscience に、「我々が意識するよりも10秒も前に我々の行動は決定されてゐることを示唆する」研究が紹介されてゐる(June 2008, pp410-411)。fMRIで脳をスキャンしながら、被験者に、右か左の人差し指のどちらかを自分で決めてボタ…

日本語の現状

『文藝春秋』六月号に、「「KY」が日本語なんて・・・」と題して、大野晋、丸谷才一、井上ひさし三氏による「言葉をめぐる憂国鼎談」が載つてゐる。オバマ候補と比べながら今の日本の政治家の語る力の無さを叱り、カタカナ言葉の濫用やお笑ひタレントの隆…

William James "Human Immortality" 其の二

非欧米人蔑視の話といふ脇道に逸れて書き切れなかつた部分の追加。 ジェームズは、production 説と transmission 説とを比較して、前者の立場からする反論や、後者の優位性についても触れてゐる。 production 説からの反論として挙げられてゐるのは、この説…

William James "Human Immortality"

William James "Human Immortality"を読む。"The Will To Believe"といふ本を買つたら、後ろについてゐた著作なのだが、George Goldthmait Ingersoll といふ人の遺言に基づいて作られた The Ingersoll Lectureship on the Immortality of Man といふ名のハー…

回復期の精神病患者

計見一雄さんの『脳と人間 大人のための精神病理学』に、ベルクソンが「現在の思ひ出と誤つた再認」の中で述べてゐる、失語症や麻痺のやうに一見して能力が欠けてゐることが分かる病に限らず、妄想、固定観念のやうな病の場合でも、積極的なものはない、とい…

H. Feigl のベルクソン観

Herbert Feigl: The "Mental" and the "physical"を読む。(David J. Chalmers ed."Philosophy of Mind, classical and contemporary readings" pp.68-72) 抜粋を読んだだけなので、早まつた判断かも知れないが、内容的には、心と脳の働きは同じものである、…

アランの『神々』

加藤邦宏さんが、ウェブにアランの「神々」を読むを連載してをられる。『神々』Les Dieux は、アランが65歳の時に書かれた本だが、彼の代表作の一つだと言へるだらう。小林秀雄の愛読書の一つでもあつたやうだ。郡司勝義さんが、昭和56年に出版された『…

フジヤマのトビウヲ

讀賣新聞に「時代の証言者」といふコラムが連載されてゐて、今は、水泳の古橋広之進さんのお話が続いてゐる。23日付の分では、古橋さんが「フジヤマのトビウヲ」といふあだ名を付けられた全米選手権について語られてゐた。非常に印象深いお話だつたので、…

将来の予測はどこまで可能か

Mark Buchanan "NEXUS"を読み始めたら、冒頭に、Karl Popper の"The Poverty of Historicism"の話が出てきた。歴史の予測は不可能であるといふことを、次のやうな議論で示してゐるといふ。先づ、原子爆弾の例に見られるやうに、人間の知識の増加は歴史の流れ…

古代ギリシャ人の意識観

ベルクソンの講義録に、次のやうな一節がある。(COURT IV, Cours sur la philosophie grecque, p.78) Les Grecs ont pris une idée, l'ont prise à l'état de pureté, et n'ont plus vu dans la conscience que quelque chose qui en sort par voie de dimin…

桶谷秀昭『昭和精神史 戦後篇』

桶谷秀昭『昭和精神史 戦後篇』(文春文庫)を読む。戦前を描いた『昭和精神史』に続く力作だ。現代における精神の荒廃は日本に限つた現象ではあるまいが、この国の場合には、やはり敗戦が暗い影を落としてゐることが知られる。 昭和24年の『私の人生觀』…

意識が脳の働きである、とは

U.T.Place"Is Consciousness a Brain Process?"を読む。(David J. Chalmers ed."Philosophy of Mind, classical and contemporary readings" pp.55-60) 意識と脳の働きについて我々が別々の表現を用ゐることは、両者が同じものであることを妨げないことを示…

自己複製するロボットは可能か

生物の一つの特徴は、自己複製である。ロボットで、それは可能か。昨年秋の"Science"誌で、ロボット技術の現状が特集されてゐた。"Making Machines That Make Others of Their Kind"といふ記事には、以下のやうな記述が見つかる。(Science 16 Nov. 2007: Vol…

メルロ=ポンティのベルクソン観

小林秀雄は、メルロ=ポンティを読んでゐた。郡司勝義さんが、かう書いてゐる。(「一九六〇年の小林秀雄」文學界2002年9月号263頁) 「『本居宣長』だけに集中して、先づそれが終つてから再び手をつけようと思ふ。しかし、メルロ=ポンティはなかなか…

二元論の問題 其の二

久しぶりに、小林秀雄の講演「現代思想について」のテープを聞き直す。この中で、小林秀雄は、精神的事実と物質的事実といふ二つの経験的な事実があることを強調してゐる。 唯物的な思想の最大の弱点は、我々の一番切実な経験である自由といふ問題を無視する…

二元論の問題点

Daniel Dennett が、"Consciousness Explained" の中で、二元論が勢ひを失つた理由を述べてゐる。(p.32-)彼の言ふところでは、現代の主流の意見は唯物論 materialism であり、この世にあるのはただ一種類のもの、即ち物質であつて、精神は一種の物理的な現象…

日本人の語学 其の二

吉川幸次郎が、古典としての中国語の勉強法について考へてゐたことは、前回見たが、その方法が通常の語学の学習とは異なることは、吉川氏ご本人が認めてをられるとほりだ。 ベルクソンの文章にも、語学教育について触れた部分がある。(Œuvres p.1326) Ne tro…

Bergson OEuvres Edition du Centenaire の誤植

Bergson の OEuvres Edition du Centenaire に誤植がある。手元にあるのは、2001年8月に出た第6版だが、831ページ28行目の末尾に続く文が、何故か36行目に跳び、そこから1行づつ上に、29行目まで戻るといふ形になつてゐる。 この作品集は、…

ベルクソンの生気説

ベルクソンは、ある種の生気説を唱へてゐた。(Œuvres p.830) Que l'effort combiné de la physique et de la chimie aboutisse un jour à la fabrication d'une matière qui ressemble à la matière vivante, c'est probable : la vie procède par insinuati…

日本人の語学

日本人は外国語が苦手だと言はれる。確かに、恥をかくのが嫌ひな上に、自分の思ひを伝へたいといふ気持の余り強くない人が多いので、下手なうちは話さうとしない、話さないから上手くならない、といふ悪循環があるやうだ。 小林秀雄(1902-1983)のやうな外国…

吉田秀和さんのコラム

吉田秀和さんが、今朝の朝日新聞のコラムで、中原中也の話を書いてをられる。吉田さんの文章は、必ず読むようにしてゐるし、いつでも一読の価値がある。元気を取り戻されて、新しい言葉を読むことができるやうになり、本当に嬉しい。 吉田さんの特徴の一つは…

色は一定の波長の光なのか

Paul M. Churchland "The Rediscovery of Light"を読む。(Chalmers "Philosophy of Mind"pp362-370) Churchlandは、心の哲学の論者の中で、最も唯物論的な立場に立つ人物である。例へば、こんなことを言つてゐる。(p369 l) Accordingly, we should not be …

哲学と宗教

ベルクソンを読んでゐて、次の一節にぶつかつた。(Œuvres p.1289) Mais cette raison n'est pas la seule. Il faut tenir compte aussi de ce que la métaphisique moderne se donna un objet analogue à celui de la religion. Elle partait d'une concepti…

動きをどう捉へるか

ベルグソンを読むと、いろいろな考へが湧いてくる。彼が、問題を根本のところまで遡つて考へ直してゐるからだらう。例へば、次の一節。(Œuvres p.1257) S'agit-il du mouvement? L'intelligence n'en retient qu'une série de positions : un point d'abor…

Antonio Damasio

Antonio Damasio の"The Feeling of What Happens"を読む。数多い脳科学の本の中では、臨床例などの具体的な事実を踏まへ、一般にも分かる文章で書かれてをり、好感が持てるものの一つだ。 科学者の立場から、二元論を排するといふ立場を明確にしつつ、現時…